2022年度本屋大賞「同志少女よ、敵を撃て」と2020年度受賞作が原作の映画「流浪の月」

★今村翔吾の直木賞受賞作「塞王の楯」を読んだ後、前からすすめられてはいたものの、先に映画の方を見た「蜜蜂と遠雷」が文庫化されたので、これを読みました。そのあと今年度の本屋大賞「同志少女よ、撃て」を読みだし4章まで読みました。第2次大戦の独ソ戦ナチスドイツと戦うソ連の少女狙撃兵がヒロインです。よくこんなリアルな描写が可能だと思うくらいですし、過酷な戦場シーンにはテレビで見るウクライナの現状が重なります。ただ、小説とは逆に今ロシアがナチスの役割を果たしているのが皮肉です。戦時下の女性問題にも触れられています。

安田菜津紀さんのインタビュー記事があります:

 
 
 
 
 
 
 
望月衣塑子
 
@ISOKO_MOCHIZUKI
戦時下の女性に焦点を当てた逢坂冬馬さんの本。考え抜かれた内容であることがよくわかる、安田菜津紀さん さんのインタビュー。 描いた女性狙撃兵たちは「自分たちと無縁の存在ではない」――『同志少女よ、敵を撃て』作者、逢坂冬馬さん
4月6日、2022年本屋大賞の受賞作が発表され、逢坂冬馬(あいさか・とうま)さんのデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』が大賞に選ばれました。昨年8月に発表されたアガサクリスティー賞では、史上初めて選考委員全員が満点をつけ受賞。その後、直木賞の候補に選出されるなど、今注目を集めている作品です。第二次世界大戦中の、旧ソ連とドイツによる独ソ戦を舞台に、実在した女性狙撃部隊をモデルにして、彼女たちが見つめた戦争とその過酷さを描いています。

シアター入り口のポスター(ピントが合ってませんが一枚だけだったので)

さて、昨夜は李相日監督の「流浪の月」を観てきました。一昨年、凪良ゆうの原作を読んで闘病中の友人に送った本です。李監督が広瀬すず松坂桃李主演で映画化、横浜流星多部未華子も出演ということで、文庫化された機会に再読。今回、初めてのオンライン予約で映画のチケット購入時、失敗してしまいました。昼間一人で観て夕食までには家に戻ってという計画がダメになり、公開初日の舞台挨拶ライブ中継付きの夜の部の予約になってしまいました。黙って行く訳に行かず、いっそのこと誘ってみようということで、結局雨の中車を出して二人で観てきました。

素晴らしい映画でした。小説は更紗(広瀬すず)のモノローグで語られる大部分と、最後に文(ふみ)という青年のモノローグが短く挿入されますが、映画は勿論ダイアローグで15年前の子ども時代の更紗(白鳥玉季)と学生の文(松坂桃李)、15年後の大人になった二人の状況が、複雑なモザイクのようになって進行していきます。更紗には「婚約者」の中瀬亮(横浜流星)がいて、ふとしたことで再会する文にも谷あゆみ(多部未華子)がいます。15年前、伯母さんの家に帰りたくない10歳の更紗と公園で出会った19歳の学生文が傘をさしかけ「ウチ、来る」と声を掛けたことから物語は始まります。2か月を過ごした二人は女児誘拐事件の被害者と加害者となってある日警察に捕まり、その15年後が今。

ファミレスでバイトをしている更紗はエリートサラリーマンの亮と同棲中。文が店主となっている「calico(さらさ)」という名前の珈琲専門店に偶然入ったことから、物語が不穏に動き出す。亮の嫉妬から来る詮索、DV、逃げ出した更紗は文の隣に住むことになり、バイト先のシングルマザーの同僚の子どもを預かる。マンションのポストに中傷ビラが執拗に入れられる。それぞれが抱える傷と孤独と焦燥と・・・・警察や世間は15年前の事件を通してしか二人を見ようとしない・・・

15年前の悲劇的な結末が繰り返すように思えますが、更紗の描かれ方はとてもタフにも見えます。それぞれの痛みを理解しつつ自分の望むところへ前進し続けますし、文字通り自ら傷ついても立ち上がるたくましささえ備えています。最後は二人、亮にとっても、文にとっても、母性で包むような大きな女性になっていたのではないかと私は理解しました。広瀬すずさん、素晴らしい演技でした。身体的な欠陥を抱え母親(内田也哉子)からもハズレの宣告を受けひっそりと暮らしながらも優しく更紗を見守る文、抱える闇の深さを松坂桃李さん、半年前から体重を減らし折れそうな身体で表現。

世間の一般的なものの見方を体現、かつ不幸な生い立ちからくる暴力的衝動と自己愛と、それでいて失いたくない更紗への愛か執着か分からない亮を好演した横浜流星さん。この世界観に入りたいと李組参加を願い出た思いは本物。パンフにも更紗と文の新しい愛の在り方を「お互いに傷を負って、埋めあっているふたりは絶対どこかにいる」と。多部未華子さんは短い出番でしたが、最後の涙の別れが文を責めているようでかつ自分にも向かっているような気がしました。文は自分の所為にしていましたが。

韓国から迎えたという「パラサイト」の撮影監督ホン・ギョンピョのカメラが本当に美しい。陰影の深い自然。月、湖、水、光、灯り、建物や室内。風で揺れるカーテン。ほとんどアップでとらえられる人物の心の動き。これは俳優たちも大変でしょう()。

2時間半、濃密な時間でした。

13日の金曜日は、鮮魚の届いた日で、昼間、私は沢山あった小鯵を油で揚げて南蛮漬けにしていました。夫はそれを肴にビールとワインとお酒を飲みながらパンフレットを読みだしました。私も付き合いながら、パソコンで映画評を読んだり2時間ほど、二人で今見た映画の余韻に浸っていました。

事実は逆だったようです。俳優さんたちの表情に引き込まれてカメラが寄って行ったとカメラのホンさん:

韓国を代表する撮影監督が語る『流浪の月』。広瀬すず、松坂桃李ら「俳優の素晴らしい演技にカメラが自然と寄っていった」 | LEE (hpplus.jp)