「ペシャワール会2021年度現地事業報告『いかに耕し、いかに生き延びるか』」

◎手元にある朝日新聞の7月22日の「いまinterview」のコラムは国連アフガニスタン支援団元代表の山本忠通(1950年生)氏のインタビュー記事。「アフガニスタンで、イスラム主義勢力タリバン復権してから1年がたつ」現地の問題点を聞いています。

丁度先週、「ペシャワール会報 No.152(7月6日付)」が届きました。ともすれば世界の有力国の考え方を良しとしかねない日本人ですが、さすが中村哲氏が現地第一で活動されていたペシャワール会、地に足の着いた考え方に教えられます。現地の具体的な様子も報告されていますので、村上優会長の報告を書き移してみます:(文中の下線や太字、色字、囲いの見出し by 蛙)

 

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   いかに耕し、いかに生き延びるか

           2021年度現地事業報告

PMS(Peace Japan Medical Service)総院長/ペシャワール会会長

                     村上優/PMS 支援長

はじめに

 アフガニスタンの人々の苦難は干ばつによる飢饉です。中村哲医師は、地球温暖化の脅威の現れとして、この地の干ばつを繰り返し訴えていましたが、その声を国際社会は充分に聞くことはなかったのです。

 2021年の春、WFP(世界食糧計画)などは、アフガニスタン国民の半数2000万人が飢餓に襲われると警鐘を鳴らし、当時のガニ大統領も6月には危機感を表明していました。

 PMSペシャワール会はクナール河流域の用水路事業を進めるとともに、アフガン全土へのかんがい事業の普及を立案していたのですが、その矢先、8月15日に電光石火でタリバン政権が復活しました。この政変に関しては様々な報道がなされました。ただ、民衆―――国民の8割以上を占める農民たち―――が40年近く続いた戦闘を忌み嫌い、イスラム教の規範を最重要視するタリバン的秩序を受け入れたことは事実でしょう。人々の関心は「いかに耕し、いかに生き延びるか」という、平和な農村共同体の回復にあったのです。しかしその結果、アフガニスタン経済制裁を受け、貧困と飢餓の危機が増大しました。

 私たちは、目の前の命の危機に手をこまねいてはおられません。以前にもまして「水が善人・悪人を区別しないように、誰とでも協力し、世界がどうなろうと、他所に逃れようもない人々が人間らしく生きられるよう、ここで力を尽くします」中村哲、解放26号、2015年)がペシャワール会/PMSの指針となりました。

 ペシャワール会の会員・支援者は政変以後、増え続けています。皆様から寄せられる共感によって困難を乗り越え、事業を継続することができました。心から厚く御礼申し上げます。そして危機に際して支えとなる中村医師に感謝します。

タリバン政権の復活(写真の記事から)

くの貧しい農民たちは内戦が終結したことを歓迎したのです。一方近代的な生活を享受していた都市住民や西洋の価値観を学び体験した人々はタリバンを忌避しました。

 2000年アフガニスタンアルカイダを匿(かくま)ったテロ支援国家として国連より制裁を受けます。そして、2001年9月11日のアメリ同時多発テロに端を発して、同年10月には空爆を受け、一ヶ月後にタリバン政権は崩壊しました。ただし、その後も農村部を中心にその勢力は維持され、徐々に拡大していきます。

 2001年以降国際治安支援部隊ISAFに支援されて、アフガニスタン共和国が継続することになります。米国ブラウン大学ワトソン研究所の報告によれば、この20年間に2兆3130億ドルの資金がアフガニスタンに投入されたとのことです。その多くは軍事費であったとしても、民生にもかなりの資金が流れたはずですが、その恩恵は一般の人々、特に貧しい農民にはまったく届いていなかったのが現状です。詳細は将来に待つとしても、極端な富の偏在があったことは事実でしょう。

 その結果、2021年)外国軍の撤退と同時に、アフガニスタン首長国タリバン政権)が復活しました。まだ国際的に承認を受けるに至っていませんが、実際には国家・行政機関として機能し、前政権から97%の公務員を引き継いだとタリバン広報官は述べています。

欧米の価値観からの問題点

 欧米が最も問題視するのは「包摂的な政権ではない」「人権、特に女性の人権がまもられていない」ことです。包摂的でないというのは、政府がほとんどパシュトゥン族で構成されていること、女性の人権に関しては、高等教育が妨げられていることが挙げられています。ことに欧米メディアでは女子教育に対して厳しい報道を目にします。2000年の時には「テロ支援」の名目で制裁し、今回は「女性の人権」という件地から制裁を課しているようにみえます。

 中村医師は文明の名において、一つの国を外国人が破壊し、外国人が建設する。そこに一つの傲慢が潜んでいないだろうか」と、一方的な価値観でアフガニスタンを裁き、支配することに異議を唱えています。

 2001年にバーミヤン仏跡をタリバンが破壊し国際世論が沸騰した時には、

我々は非難の合唱に加わらない。私たちの信仰は大切だが、アフガニスタンの国情を尊重する。暴に対して暴を以って報いるのは、我々のやり方ではない。今石仏の議論をする暇はないと思う。平和が日本の国是である。少なくともペシャワール会PMSは、建設的な人道支援を、忍耐を以って継続する。そして、長い間には日本国民の誤解も熔ける日が来るであろう。我々はアフガニスタンを見捨てない。人類の文化とは何か。文明とは何であるか。考える機会を与えてくれた神に感謝する。真の人類共通の文化遺産は、平和と相互互助の精神である。それは我々の心の中に築かれるべきものである」(『医者  井戸を掘る』)と語っています。

 経済制裁と食糧危機

 タリバン政権復活後、アフガニスタン中央銀行の資産90億ドルが凍結されました。日本からのPMS運営資金の送金は出来なくなり、アフガニスタンの銀行に預金していたドルも引き出し不能となりました。その後、アメリ財務省外国資産管理室は国際機関などからの抗議により、人道支援に関しては送金可能とする指示を出しましたが、実際の動きは鈍く、混乱しています。

 外国からの送金は人道支援と認められたNGO に限られるため、アフガニスタンの企業や個人に対しては制裁が継続しています。その結果、失業、現地通貨アフガニの暴落、食糧価格の高騰は著しく、ウクライナ情勢も影響し、この3か月間だけで小麦価格は2倍になりました。貧しい人々は、緊急食糧支援にのみ頼る生活となっています。

 危機を乗り越えて

 2021年10月より様々な工夫をしてPMSへ送金してきましたが、今年の5月にタリバン政権の指示により、アフガニスタン復興に寄与するNGOは銀行からの引き出しが一部可能となりました。昨年来、給与の大幅な遅配に耐え、支出を抑え、農作物などの収益を事業費に充てるなどしながら、PMSは活動を続けてきました。PMSスタッフと日本の支援者・事務局が信頼し合って危機を乗り越えてきたのです。その努力はバルカシコート堰の完成などで報われました。干ばつや経済危機は今も重くのしかかっていますが、現地事業が軌道に乗って進んだばかりか、緊急の食糧支援も手掛けることが出来ました。そのすべてに感謝し、以下に2021年度の具体的な報告を記します。(以下省略)

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