「福島第一原発 -真相と展望」

アーニー・ガンダーセン著のこの本、夫が読み終えて回ってきました。

福島第一原発 ―真相と展望 (集英社新書)

福島第一原発 ―真相と展望 (集英社新書)

ガンダーセン氏について、カバーの紹介文から:

Arnie Gundersen(アーニー・ガンダーセン)


 1949年生まれ。原子力技術者。エネルギー・アドバイザー。レンセラー工科大学大学院修士課程修了。エンジニアとして全米で原子炉の設計、建設、運用、廃炉に携わり、米エネルギー省の廃炉手引書(初版)の共著者でもある。原子力業界の役員を務めた後に、妻のマギーと設立したフェアウィンズ・アソシエイツ(Fairewinds Associates Inc.)は、原子力発電に関する様々な調査分析や、訴訟・公聴会における専門家としての意見提供を行っている。


 福島原発事故の直後にCNNでレベル7を指摘したガンダーセンは、スリーマイル島原発事故も含め、原発トラブルについての豊富な知識と経験を持つ。福島を巡っても、情報が錯綜する中で的確な分析と警告を公表し、注目されてきた。三号機や四号機のリスクも指摘している。
 隠された事故の真因とは何か?今後起こり得る危機には何があるのか? どのような対処が可能なのか? 漏洩した膨大な放射性物質の健康への影響は? 米専門家が福島ぢ一原発の深刻な現状を明らかにし、安全な未来への糸口を探る。

詳細な事故の説明(「第二章 各号機の状況」)にも驚きますが、次の章の「廃炉放射性廃棄物処理」や「深刻な健康被害」「避難と除染の遅れ」を読んでいると一寸絶望的になります。
六章からの「原発の黒い歴史」「規制と安全対策」では、原発推進派、原子力ムラのやることは国が違っても同じだと思いますし、原発の安全性を訴える科学者や技術者や現場が受ける仕打ちも共通していることがわかります。最後の八章は「脱原発に向けて」です。
最後に、「おわりに」から一部引用です:

 日本政府、東電、国際原子力機関IAEA)の宣伝とは裏腹に事故は収束から程遠い状況です。<略>


 それなのに、なぜ原発の擁護が一層強化されているのでしょうか。保身や利権、短期的利益を追求する人間の欲が理性を切り崩す構図は、社会全体に共通しています。それに加え、核兵器と表裏一体で開発されてきた原子力は、国家の威信や機密事項と切っても切り離せない関係にあります。


 広島と長崎への原爆投下を皮切りに、各国政府や大企業によって何章、いえ何冊分もの物語が紡がれてきました。ズラリと揃った書物は、両側から一対のブックエンドで区切られます。福島第一事故の惨事を受け止める私たちは、倒れそうに並べられた一連の本の終わりに、もう片方のブックエンドを強い意志と共に置かなければなりません。将来の世代を救うために、市民が歴史の主導権を握るチャンスなのです。 


 これからは化石燃料やウランではなく、日本が恵まれている風力、太陽光、潮力、地熱といった代替エネルギーを生かす時代です。技術者として私は日本の革新的なテクノロジーと丁寧な仕事ぶりに敬意を払っており、思慮深く勤勉な人々が世界に手本を示してくれることを期待しています。


 パラダイムシフトを乗りこなすにあたって、日本は決して遅れを取っていません。他国も失敗から学んでいませんし、国境を知らない放射能は地球規模の問題です。原子力を推進している他の国にとっても原発が本質的に時代錯誤であることに変わりはなく、持続可能な選択ではありません。これから幕開けとなるエネルギー革命を、日本にぜひともリードして欲しいと願っています。

翻訳の岡崎玲子氏「1985年兵庫県生まれ。ジャーナリスト、ニューヨーク州弁護士。カリフォルニア大学ロサンゼルス校ロースクールUCLA,LL.M)修了。『レイコ@チョート校』でデビューし、『9・11ジェネレーション』で、黒田清JCJ(日本ジャーナリスト会議)新人賞受賞。訳書にスラヴォイ・ジジェック『人権と国家』、ノーム・チョムスキー『すばらしきアメリカ帝国』など。(本書より)
ガンダーセンさんの3月「報道特集」でのインタビュー番組動画:http://www.youtube.com/watch?v=33h9RSk6Rks&feature=player_embedded