三菱一号館美術館と「サロメ」

いよいよウィーン国立歌劇場の日本公演「サロメ」の当日(16日)になりました。前の週の水曜日、小さな新聞記事で総監督のウェルザーメスト氏怪我のため来日中止の記事を朝見つけてガッカリしているところにチケットを取ってくれたEさんから電話。チケットの払い戻しはないという記事だったそうです。いいわよ〜ウィーンフィル聞けるし、二人に会いに行って東京駅も見られるし・・・でも、3度目だから、もうこれで最後にしろってことかと観念してる、と弱音?も。で、その当日になったわけです。
東京駅の待ち合わせ場所「銀の鈴」には、すでにお二人が揃って待って下さっていました。2年前、朝香宮邸で3人で会ったので、Eさんが今回の顛末を話していたとか。Nさんが「こんなこともあるのね〜」と同情ひとしきりでしたが、「切換え、切換え」と、目的地の三菱一号館美術館へ。2年前、二人で昼食をそこのレストランで予定していたのに改装工事中とかで、有楽町まで歩いてイタリアンのお店に入り、出光美術館で時間つぶししましたので、今回は食事も建物も美術展もと計画しています。
赤レンガの三菱一号館の建物は、最近(2009年)復元されて美術館になった所です。東京駅に一番近い美術館かも。カフェレストランの入口に入ると既に待合のような所で待っている人たちが。テーブルについてから、私は新聞紙で作った手作りコサージュのお土産を箱から取り出して二人にお見せしました。私自身、左胸にブルーの花を付けていましたので説明は簡単。私のブログで知っていたNさんは、実物を見て、これが〜という感じでした。6個持ってきていましたので、好きなのを3つ選んでと、紙箱付きでお渡ししました。呼び込まれて席に着きましたが、ここのフロアが銀行として使われていた場所で天井が高く、お金の受け渡しをしたガラスの仕切りもそのまま復元されています。
レストランを出て美術館の入り口を探して建物をひと回りして裏へ廻りました。裏はビルに囲まれた林の中の公園のようになってます。お昼時でお弁当やパンを食べている人たちや話し込んでいる人たちがたくさんいます。花壇やベンチをよけながら歩いて入口を見つけて中に入ります。
シャルダン展とかでチラシに書かれた「静寂の巨匠」シャルダンの作品を見ることに。
ジャン・シメオン・シャルダン[1699-1779]はフランスを代表する生物・風俗画の巨匠だそうで、ビックリしたのは獲物の死んだウサギがモチーフになった静物画が何点かありました。
チラシに紹介されている「木いちごの籠」は小品ですが、ピラミッド状に積まれた赤いイチゴが静かで美しい絵でした。デルフト焼の花瓶に活けられたカーネーションの花を描いた絵も、花の輪郭は筆でざっくりと描かれただけですが立体感が出た良い絵でした。なぜだかセザンヌのリンゴの絵が一点あって、黒く輪郭を描いた中を筆のタッチが分る程度に彩られていた絵でしたがひときわ生き生きと見えました。これもチラシに載っている絵ですが、シャルダンの「食前の祈り」という絵。国王ルイ15世に謁見が叶い献呈した絵だそうで、その後各国の王侯貴族が競って注文、同じ主題の絵は4点現存しているそうです。低い椅子に座って母親を見ているのは男の子で感謝の祈りの途中で言葉に詰まった一瞬とか。

さて、3時半開場、4時開演のオペラは上野の文化会館。それまでにホテルに入って荷物を置く予定ですので、東京駅へ戻ることに。ここ数年、東京駅は大阪の阪急百貨店の通路と同じ状態で、これまで3回ほど上京していますがいつも工事中でゴチャゴチャしていました。今回はスッキリと改装工事の済んだ東京駅を楽しみに来ました。上の写真は角度が良いのか写生をしている人たちが沢山いたところから撮ったもの。
Nさんとはここで別れてEさんと私は上野へ。ホテルを探して受付に荷物を預けて文化会館へ急ぐことに。ウィークデイの4時開演、変な時間に始まる公演ね〜なんて言ってたのですが、すごい人です。3階の右翼の隅っこの席でしたが、下を見下ろすと空席はありません。すごい、さすがウィーンフィル(国立歌劇場)と改めてビックリ。自分もその一人ですが、自分のことは棚に上がっています。
Eさんはメストさんが選りによってどうして日本公演にサロメを…と知り合いのクラシックファンにこぼしたら、「好きだからじゃない」と言われてショックだったようです。私はかの有名な”首を所望したサロメ”の話をキチンとしたオペラで見るのは初めてなので大変楽しみにしてきました。期待以上でした。サロメ役のグン=ブリット・バークミンは「2年前にチューリッヒ音楽祭で大抜擢の末に初めてサロメを歌って好評、サロメ歌いとして世界に名を馳せ始めている」方だそうです。因みにウィーン国立歌劇場で彼女の「サロメ」を聴けるのは2014年なのだそうで、今回は現地に先駆けてでした。
張りのある艶やかな声は出ずっぱり歌いっぱなしでも疲れ知らずという感じでした。ヘロデ王に踊ってくれれば王国の半分でも望みの物をやろうと言われ、サロメは「七つのヴェールの踊り」を披露。サロメは自分の口づけを受け付けなかった預言者カナーンの首が欲しいと。銀の皿に乗せられた首を前に歌うサロメ。自惚れとエゴの極みのようなサロメの狂気。歌声とオーケストラが絡み合ってリヒアルト・シュトラウスのオペラの舞台は妖しい世界へ。一幕、休憩なしの100分間、濃密な倒錯の世界でした。
ミーハーファンの私にはメスト氏ではなく代役のペーター・シュナイダー指揮で良かったかもしれません。メストさんだったら指揮ぶりやオーケストラが気になって、こんなに一体となった舞台を堪能できたか・・・(やっぱり、シルキーな美しい音とスリリングでドラマチックな盛り上がりは聞きたかったかも・・・)と大満足?でした。