「盛夏ミニ ミニ ミニ ミニ コンサート」

7月末ごろポストにA4サイズのコピーが入っていました。近くのHさんが犬の散歩のついでにホームコンサートの案内を入れてくださったのでした。
シャンソンを趣味にしているHさんですが、知り合ったのは以前ヨガのメンバーだったから。今は膝を痛めてヨガは辞め、シャンソンの発表会にヨガ仲間で聞きに行ったりしています。
娘さんがオランダのレジデンシー管弦楽団の楽団員でヴァイオリン奏者です。夏休みで日本に1か月ほど帰国。妹さんでイタリア語の通訳をなさっていたIさんが、イタリアのフェニーチェ歌劇場の合唱団歌手の林道子さんと長年のお知り合いで、この度、林さんの80代のお母さんともどもHさんのお宅で預かることになった(ご主人が亡くなられてお部屋が空いてるとか…)ので、ジョイントコンサートをすることに、ピアノは才能豊かな箕面在住の高校生ということでした。
いつも私が、頂いた案内をヨガ仲間へ伝える役なんですが、木曜日ということ、8月ということで、2,3人の方たちが都合がつかず、結局私とSさんが行くことに。お電話で、『当日は沢山来られるので何も持たないで…』と言われていましたので、手ぶらで御邪魔することに。
今日は、珍しくスカートにしました。生成りのストライプの袖なしワンピースに冷房に備えてリネンのジャケットを持っていくことに。15分ほど前にお宅に着くと妹さんのIさんが出迎えてくださいました。すでに何人かの方たちが来られていました。奥のピアノ室と手前の和室の引き戸を外してワンルームに、そこに椅子が何脚くらいあったでしょうか…両側のソファの間に詰めてあり、玄関ホールにまで。これは、準備が大変だったことでしょう。
椅子の座面には、資料を5枚ホッチキス止めしたカラー印刷のプログラムがそれぞれ置かれています。しばらくして、Sさんが来られたので、私が誘って、ペアで並んでいる低くて座り易そうな赤い座面の一番前の椅子に座りました。
開演の2時が来て、ホームコンサートが始まりました。
ソプラノの林道子さんがカンツォーネを4曲。資料として4月11日付の朝日新聞のコピーが。フェスティバルホール10日の開業記念こけら落としコンサートの記事です。フェニーチェ歌劇場合唱団員としてこの日出演した林道子さんは「在伊30年以上だが、兵庫県尼崎市で生まれ、旧ホールで数々の名演を聴いて育った。『子どもの頃から通ったホールの舞台に立てて感激。新しいのに懐かしい』」と記事になっています。
真ん前で聞くイタリア語のソプラノのなんとドラマチックなこと! 最高音なんて”耳をつんざく”という表現がピッタリです。Hさんが『声も大きいけど体も大きいよ〜』と仰っていましたが、確かに大柄、イタリアのプロのオペラ歌手が素足で歌ってるなんてのも滅多にないことです。
いよいよHさんの娘さんのヴァイオリンです。最初は、大阪フィルハーモニー交響楽団の田中美奈さんと2台のヴァイオリンで、テレマンの「ガリヴァ―旅行記組曲から。テレマンとスゥイフトは同時代人だそうで、早柏由紀さんの、”小人を表現しています”とか、”今度は巨人がゆったりと”と解説が適確。初めて聞く「ゴセック」のデュエットも、異なる性格を2台のヴァイオリンで表現するのがとても面白く聞けました。
次に林道子さんの、今度は「ミュージカル・ソング」と題して4曲。「エヴィータ」、「オペラ座の怪人」、「キャッツ」から”メモリー”、そして「レ・ミゼラブル」から”夢破れて”。自分でその都度、傍らのCDラジカセのボタンを押しながら。英語の歌とイタリア語は明らかに違う…なんて当たり前のことを感じながら、声量に圧倒されて聞き惚れました。
3時過ぎに休憩。総勢25名ほど(あるいはもっと?)が席を立って、お茶が用意してあるというダイニングルームの方へ。家中のテーブルをくっ付けてガラスコップに冷えた麦茶と、チョコレートや和菓子やクッキーやブドウがお皿にのせてあります。一番南のサンルームも人でいっぱい。
大フィル16年の楽団員でヴァイオリニストの田中さんとSさんと私の3人でしばらく話しました。フェスティバルホールでもう何回も演奏されているようです。Sさんは若い頃(40年ほど前?)、フェスティバルホールが職場だったので、カラヤンも聴いているし大フィルもよく聴き馴染んでいます。昔のホールの方が良かったというお話。どうも、田中さんもそんな感じでした。
林道子さんはイタリアで録音したCDを持って来られていたので、買い求めました。家に帰って先ほど、聞いてみようと思ったら、音が出ません。どうして???
私の左隣に居た方は、かなりのご高齢の男性。休憩時間に、「どちらから?」と話し掛けたら、耳が遠いのでとその隣におられた奥様が代わりに話してくださいました。若い時からクラシックが好きで、特にオペラが好きだったとか。「今日は、こんな近くで聞いて、全部す〜〜と耳に入ってきます」と、ご主人が嬉しそうに話してくださいました。
後半は、早くから、ず〜と隣りのベッドに腰掛けて待ち続けていた高校生のピアニスト、中道舞さんのピアノ。背が高くてモデルさんみたいです。きゃしゃに見えますが、ピアノの音は思い切りよく鳴りますし、指も良く回って素晴らしい。バッハの平均律クラヴィア曲集から1曲。ショパンの練習曲集の第8番。ブーニンが優勝したショパンコンクールポーランドのヤブオンスキーが弾いていた曲だと思います。3曲目はスクリャービン、12の練習曲集より第2番。演奏を終わってお辞儀をするときの笑顔で、やっと高校生に戻るという感じです。
ついで、林さんのオペラ・アリア。プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」から「私のおとうさま」、最後は同じくプッチーニの「蝶々夫人」から「ある晴れた日に」。圧倒的な声量のイタリアのベルカントです。
いよいよ最後のプログラムは早柏由紀さんのソロで、ヴァイオリンの名曲、バッハの「G線上のアリア」とマスネの「タイスの瞑想曲」。ピアノ伴奏は、さっき歌った林道子さんです。早柏さんの落ち着いた演奏がしみじみとこれらの名曲を奏でて美しい響きです。最後はモーツアルトのソプラノの歌曲を林道子さんがピアノを弾いて歌い、合唱部分を早柏さんがヴァイオリンで演奏します。
長く続く拍手に、「これで、お仕舞。出来るのは全部やりましたから…」とIさんが。みんな余韻に浸って動けません。どうも、高校生の中道さんが一曲やってくれそう! 今度はピアノのふたも開けて。中道さん、”途中でストップするかも”と言いながら、ピアノの前に座って弾き出したのは、かなりの大曲。これは最後までノンストップでキチンと演奏出来そう…、素人ながらですが、さっきより硬さが無くて良い演奏でした。スクリャービンです。

Iさんのお話では、イタリアで若い頃、林道子さんはマリオ・デル=モナコの伴奏のピアノを弾いておられたのだそうです。当時、テノール歌手・デル=モナコ全盛期、日本から一曲でいいから聞いてほしいとモナコの所にやってくる人たちが大勢いて、そういった人たちの伴奏を林さんがやっていた。だから、歌の方は喉が疲れていると思うけど、ピアノの方は今からでも何でも弾けると思いますよ…と。そういう修行をしてきた人だったの…と納得でした。
Sさんと二人、ご挨拶をして外に出たら、むっとするような暑さ。暫く別世界でした。