樋口陽一「問われているのは改憲草案に賛成か反対か」(日刊ゲンダイ)


一昨日、買い物の帰りにバッタリ自転車のMさんに。Mさんから声を掛けられて、「あれ、お孫さんと」。数年前、自治会の区長、私が副区長の時、折り紙を一緒に習っていて、お宅に行ったり我が家に来てもらったりしていましたが、その後、同居されていたお義母さんがなくなられて、翌年またご主人を亡くされました。どちらも自治会だよりで知ることに。我が家と同じ年齢でしたので、70になったばかりでということでした。お互いの近況報告をして、「私らも気ぃ〜つけような〜」と言われました。
さて、先日、Sさんとの電話でも話したことですが、私達は、息子が結婚していなくて、お嫁さんにご縁がなく、孫がいないので、若い世代のことが分からなくなっています。「教科書、見ることもないし」とSさんも。そういう世代にとって切実なのは憲法の問題です。勿論年金のことや医療費のことも心配ですが、今までのように平和で自由にモノが言える世の中であることの方がもっと大事だとも思います。

Sさんの話では朝日新聞には樋口陽一氏の記事が連載されているようです。私が憲法学者の樋口さんを知ったのはNHKの2012年の番組「光は辺境から…自由民権 東北に始まる」でした。今は亡き宮城出身の菅原文太氏が案内役で出ておられて、同郷の樋口陽一氏の、今の憲法には源流があってというお話から、自由民権運動や五日市憲法植木枝盛鈴木安蔵を知りました。民主党政権に代って情報開示が進み、NHKでも、日韓の歴史や憲法原発事故などにも突っ込んだ内容の番組が増え、見ごたえのある時期でした。その憲法の先生の樋口陽一氏を紹介するツィートを見つけました:

内田樹さんがリツイート

KK
‏@Trapelus
注目の人直撃インタビュー
東大・東北大名誉教授(憲法学者) 樋口陽一

かつての自民党と現在の政権与党は同じ政党ではない

- 国民の大多数は憲法改正を認めていない
- 問われているのは「改憲草案」に賛成か反対か
日刊ゲンダイ

◎ここに書かれている「自民党と現在の政権与党は同じ政党ではない」という言葉、これと同じことを、そうそう、「青空学園だより」さんでも読んだところでした。6月5日の「青空」さんのブログからです(http://d.hatena.ne.jp/nankai/20160605

自民党は,かつての自民党ではない.アメリカのもとで軍を世界に展開しようとするファシズムの党であるもとよりマスコミもこの本質を伝えない.かつて自民党に投票してきた層が同じ考えのまま変質した自民党に投票する.搾取・収奪のためのあらゆる合法的方法がなくなったとき,資本主義はその維持のためファシズムを登場させる.それが9.11以降の世界である.

樋口陽一氏も、安倍自民党は「保守」に不可欠な3つの要素をすでに無くしており、もはや保守ではないと述べておられます。それでは、日刊ゲンダイの記事を書き移してみます:
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かつての自民党と現在の政権与党は同じ政党ではない

国民の大多数は憲法改正を求めていない

ー先生は81歳ですよね。安保法案採決前の昨夏は、御高齢を押して小雨の降るなか何度も国会前での演説に立たれた。「立憲デモクラシーの会」「立憲政治を取り戻す国民運動委員会」などの団体でも積極的に活動し、安倍政権の立憲主義破壊や自民党のもくろむ憲法改正の危険性を訴え続けていらっしゃる。その原動力とは何ですか。

樋口 ―私の専門は憲法学で、他の人より多少は知っていることがある。だからこそ、言わなければならないことがあるし、国民のひとりとしても、言うべきことは言わなくてはなりません。

―安保法が成立し政治権力が憲法の根幹を勝手に骨抜きにしてしまった。「学者は中立的な立場で論評していればいい」という悠長な局面ではなくなったということですか。

樋口 ―「象牙の党」にこもった学問に専念できる時代の方が研究者としては幸福です。しかし、いつまでも、そのような幸せな時代だとは限らない。
 戦後を振り返ってみると、改憲を目ざした岸首相が1957年に内閣憲法調査会を発足させたのに対して、私どもの恩師世代が「憲法問題研究会」を結成し、世論に問題のありかを訴えました。大内兵衛さん(経済学者)が代表で、憲法学者では私の直接の恩師の清宮四郎さんと宮沢俊義さん、それから民法の大御所の我妻栄さん、そして湯川秀樹さんほかが発起人でした。戦時中の困難な状況に耐え、ようやく学問出来る。論壇に復帰できた学者には、そんな思い、時代背景がありました。発起人の記者会見は各新聞が1面トップ記事で大きく報道した。それほどの出来事だったのですね。
 我妻・宮沢のお二人は政府の憲法調査会からの招請を断って民間の憲法問題研究会を立ち上げた。当時の政府の要人が「政府からの要請を断っておきながら、札付きの左翼と研究会を発足させるとはけしからん」というような談話を出したのに対して、宮沢さんが、この問題については札付きの左翼とも一緒にやる必要があるというだけだ、と答えたのをおぼえています。

改憲をめぐって、自民党VS学者という構図が、岸信介の孫である安倍首相の時代に再燃していることに因縁を感じます。ところが改憲参院選の「争点」という事を自民党は伏せたがっている。

樋口 -首相は国会答弁で「憲法改正問題については国民レベルで大いに議論してください」と言う。しかし、いま国民の大多数は「憲法を変えて欲しい」などと政府に要求していないのです世論調査でも分かるように国民が求めているのは「原発停止」「TPPの影響や問題点の提示」「格差是正」「社会保障の将来への不安解消」など、生活に直結する身近で具体的な課題です。

ーだから、安倍政権は改憲草案を参院選で前面には持ち出さない。争点を明確にしないまま選挙に臨み、3分の2の議席を得れば改憲について”信を得た”とばかりに突き進む、そんな懸念を感じます。

樋口 −「護憲」「改憲」という言葉を、抽象的に憲法を変えた方がいいのか、変えない方がいいのか、という意味で使う人が居ますが間違いです。それぞれが「理想の憲法」を出し合え、というのが改憲問題ではありません。いま問われているのは、2012年4月に自民党が発表し、現に掲げている憲法改正草案」に賛成か反対か、それを作った人たちが描いているこの国の未来像への賛否なのです。抽象的に改憲が問題になっているのではないのです

―『憲法改正の真実』の中で、自民党憲法草案の問題点を子細に分析なさっていましたが、とくに驚いたのは、この草案が戦前回帰、明治憲法回帰どころか、江戸時代の「慶安の御触書」レベルのものだと断言なさっていたことです。

樋口 −これは友人の歴史家が使った言葉なのですが、本質的な意味を含んでいる警句です。自民党改憲草案は明治憲法のようだというのは正しくない、むしろ明治以前の法秩序に戻るようなものだという主張で、その通りと受け止めました。
 近代憲法は国民が国家を縛るものであり、民法や刑法は国民自身に向けられたものだという区別は大切です。しかし、実は民法も刑法も一人一人の行動に直接命令は下さない。刑法は「人を殺した者は00に処する」とあり「人を殺すな」という書き方ではない。法が制裁を科すことで国民を縛っているように見える場合でも、やっていいのか、いけないのかという”良心”にまで踏み込んで縛っているわけではない法と道徳は違うのです
 明治憲法制定に関わった井上毅はこう書いています「立憲政体ノ主義ニ従ヘハ君主ハ臣民ノ良心ノ自由ニ干渉セズ」。


安倍政権は「保守」ではない

ー ところが自民党会見草案では、国家がズカズカと人々の心の良心に踏み込んでいいことになっている。そのうえ国家を縛るはずの憲法で、国民の方に「憲法を尊重する義務」や「常に公益及び公の秩序に反してならない」と命じています。自民党らしい右傾化・保守化した改憲草案と言えますね。

樋口 −現政権を「保守」と呼ぶ人が多いが、本来の意味での「保守」には3つの要素が不可欠です。

第1は人類社会の知の歴史的遺産を前にした謙虚です第2は国の内・外を問わず他者との関係で自らを律する品性第3は時間の経過と経験による成熟という価値を知るものの落ち着きです。私たちを今とりまいているのは、そのような「保守」とはあまりにも対照的な情景です。
 2012年12月の第2時安倍政権の発足時日本のメディアが「保守化」と捉えた鈍感さとは対照的に、例えばエコノミスト誌は、「歴史修正主義に執着」する「ラディカル・ナショナリスト(急進民族主義者)の政権」と論評していました。当時から欧州では、そうした勢力が台頭し始めていて、懸命にそれを抑え込もうと苦慮していただけに、アジアで唯一「価値観を共有」する仲間として安心してみていた日本で、そのような勢力そのものが政権に座ったのかという驚きだったのです。翌年初めの首相訪米の時のびっくりするほどだった冷遇は、その表れだったのでしょう。一転して去年の首相訪米の時の厚遇ぶりは、安保法制との物々交換で、「価値観の共有」より、それを優先させたということでしょう。

― 安倍政権の云う「戦後レジームからの脱却」を世界の秩序を揺るがしかねない構想だとして海外メディアは危惧していたのですね

樋口 −欧米の教養のある人々は「戦後レジームからの脱却」というスローガンを聞くと、ナチスカール・シュミットを思い出しますシュミットには「ベルサイユ・ワイマール・ジュネーブ」という論稿があります。それぞれ、第1次世界大戦にドイツが敗北して「押し付けられた」条約と憲法と、そして国際連盟を指す地名で、それらを拒否する宣言の意味をこめたものでした

ナチスと言えば、民主主義的な手段でワイマール憲法を反故にしてしまった。安倍政権も「民主主義にのっとって」を装いながら結果的に立憲主義を破壊し、民主主義を制限する憲法に作り替えてしまおうとしている。非常に巧妙で危険な手口に見えます。

樋口 −有権者は3年半の間に3回の国政選挙で現政権に多数議席を与え続けてきました。その意味で言えば「民主」というカードを何枚奪い返せるか、それが選挙の争点です。
 結党以来の自民党政権は、実は派閥という名の中小政党の連立政権で、政権内部の抑止要因が働いていました。3分の1の議席を確保できていた野党や労働運動、それにメディアの姿勢も権力に対する抑止要素になっていました。
 ところが、これしかないという「決める政治」を掲げて安全ベルトを外した政治は、この国をどこに連れてゆくのか長らく自民党に投票してきた有権者たちが支持してきた自民党と、現在の政権与党は同じ政党なのか、ここが最も肝心な点です。(聞き手=本誌・小塚かおる)

ひぐち・よういち 1934年宮城県生まれ。東京大学東北大学名誉教授。法学博士。パリ大学名誉教授。国際憲法学会名誉会長。最新刊に小林節慶大名誉教授との対談「『憲法改正』の真実」(集英社新書

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◎「リテラ」の<安倍首相の成蹊大学の恩師が涙ながらに批判!「安倍くんは間違っている」「勉強していない」「もっとまともな保守に」>(http://lite-ra.com/2016/06/post-2310.html)から:


・たとえば、安倍首相の出身学部である法学部で当時、教鞭をとり、安倍首相も授業を受けていたはずの加藤節名誉教授は、こんな厳しい言葉を投げかける:「大学の4年間などを通して、安倍君は自分自身を知的に鍛えることがなかったんでしょう。いまの政権の最大の問題点は、二つの意味の『ムチ』に集約される。2つの“ムチ”とはignorant(無知)とshameless(無恥)のことだと説明する」。


・元外交官で中国政治史を軸とする国際政治学者、そして成蹊学園専務理事まで務めた学園の最高碩学といえる宇野重昭名誉教授は、このインタビューで涙を浮かべながら安倍首相をこう批判したという。「彼は首相として、ここ2、3年に大変なことをしてしまったと思います。平和国家としての日本のありようを変え、危険な道に引っ張り込んでしまった」「現行憲法は国際社会でも最も優れた思想を先取りした面もある。彼はそうしたことが分かっていない。もっと勉強してもらいたいと思います」「彼の保守主義は、本当の保守主義ではない(略)彼らの保守は『なんとなく保守』で、ナショナリズムばかりを押し出します(略)私は彼を……安倍さんを、100%否定する立場ではありません。数%の可能性を、いまも信じています。自己を見つめ直し、反省してほしい。もっとまともな保守、健全な意味での保守になってほしい。心からそう願っています」

(写真はYさん宅の生け垣の夾竹桃と紫陽花)