ETV特集「熱き島を撮る 沖縄の写真家 石川真生」と伊勢崎賢治の「日米地位協定の異常性」


◎先週土日曜日の夜11時からのETV特集「熱き島を撮る 沖縄の写真家 石川真生」を見ました。
画面に引き付けられて1時間見てしまいました。女性写真家まおさんの怒りと涙が写した生の沖縄です。(再放送に間に合わせようと思っていたのに、どうももう終わってしまったようです)

11日(土曜) 午後11時00分〜 午前0時00分
ETV特集「熱き島を撮る 沖縄の写真家 石川真生」


沖縄の人々にこだわり、撮影し続けてきた写真家の石川真生。真生が沖縄の歴史を創作写真で表現する姿を追ったドキュメンタリー。


沖縄にこだわり、沖縄に生きる人々を撮り続けてきた写真家、石川真生。写真家人生40年を過ぎた今、16世紀から現在に至る“沖縄の歴史”を創作写真で表現する作品琉球写真絵巻”に取り組んでいる。しかし今年2月、真生の体に腫瘍が見つかり、手術することになった。


番組では、写真絵巻の続編である“現代の沖縄”の場面を撮影する真生に密着。そこには、真生だからこそ表現できる“沖縄の中のオキナワ”がある。(http://www4.nhk.or.jp/etv21c/x/2017-11-11/31/1365/2259603/

伊勢崎賢治さんの新著を紹介する記事を見つけました:

山崎 雅弘‏ 
@mas__yamazaki 11月13日
伊勢崎賢治「知らなければよかった『緩衝国家』日本の悲劇」(現代ビジネス)http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53472

◎沖縄がなぜいつまでも本土並みにならずに『オキナワ』であり続けるのか、日米地位協定について新著「主権なき平和国家」(いつまで占領状態を許すのか!)を布施裕仁氏と共著で出した伊勢崎賢治さんの記事、全文引用してみます:

知らなければよかった「緩衝国家」日本の悲劇。主権がないなんて
日米地位協定の異常性を明かそう
伊勢崎 賢治 (東京外国語大学教授 紛争屋)



アメリカの仮想敵国の真正面に位置する日本。加えて、アメリカ本土から最も離れたところで、その仮想敵国の進出を抑える防波堤となる「緩衝国家」日本
この日本を支配するにおいて国内で「最も差別された地域」沖縄に、あえて駐留を集中させ、駐留が起因となる反米感情が、常にその地域に限定された「民族自決運動」になるように、その緩衝国家本土の「反米国民運動」に発展させない
これが誰かのグランドデザインだったら、あっぱれとしか言いようがない
その根幹をなしているのが日米地位協定である。

(◎ここまで読んで、大阪の機動隊員だったかが、沖縄の米軍基地建設の警備に動員されて、反対する沖縄市民に向かって『土人』発言したことを思い出します。まんまと本土の差別意識が利用されていますし、これが「民族自決運動」である「沖縄独立」に向かえば、思う壺なんじゃないかと思います。その点、沖縄の写真家石川真生さんのドキュメンタリーでは、ヘリパッドに囲まれた東村高江の住民は『土人発言に負けない笑顔と踊りで返したい』と、その手に乗らない受け止め方をしていました。)


戦時と準戦時と平和時


属地主義」。例えばそれが日本なら、国内で在留外国人が起こす全ての事件に日本の法令が適応される。これは国際関係の基本中の基本の原理だ。
そこに「例外」を設けるのが、大使館員等のための外交特権、そして、何らかの理由で駐留する外国軍のための「地位協定」である
アメリカは世界で最も多くの地位協定を持つ国である。国防総省国務省で、一時期、数字が食い違うほど多い。115以上あると言われる。そのうちの一つが日米地位協定だ。


アメリカが持つ地位協定と言っても色々ある。
アメリカが敵国の政権を倒し占領政策を開始する。アメリカ軍が軍政を敷いている状況である。ここではまだ地位協定を締結する相手がいない。だから、駐留軍による軍政の”やりたい放題”である。基本、裁判権は駐留軍の軍事法廷だけ。これを「戦時」としよう。


だが、少し時間が経つと、軍政を継続しながら”傀儡政権”の建設が始まる。当たり前だ。そのまま駐留し続けたら、それは併合。つまり国際法上許されない「侵略行為」になってしまう。
もちろん、まだその相手国の「主権」は半人前の状態である。しかし、どんなヨチヨチ歩きの新しい国家でも、自動的に、ナショナリズムは芽生えるのだ。外国軍が駐留することへの不満。特に、駐留軍による事故/事件の発生によって、それが加速される。この状況を「準戦時」としよう。
傀儡政権の建設が進むと「国内法」の整備も進むから、そういう事故の発生時は、自ずと駐留外国軍の法と現地法の「競合」が起こる。それを扱う措置と手順を地位協定もしくは軍事協定で定める必要が出てくる。
この時期は、依然として国内の治安維持を駐留外国軍が主力戦力として担い、同時に、半人前の主権下でも自前の国軍や警察ができてくる時である。



「戦時」としては、例えば、2001年の9.11同時多発テロ後、アメリカがアフガニスタンタリバン政権を倒した直後。そして、2003年のイラク、サダムフセイン政権を倒した直後から始まった占領統治。未だ占領を受け入れない武装勢力との戦闘を引き続き侵攻軍が行なっているような状況。
時間が経つにつれ、新しい国軍と警察の創設が始まるが、それに主導権を引き渡しても、その側面支援のためにアメリカ軍は駐留を続ける。今の状態のアフガニスタンイラク(2回目の更新で決裂)が「準戦時」の受入国にあたる。朝鮮半島は「休戦」状態であるから、韓国も「準戦時」の受入国になるのかもしれない。


これらに対して「平和時」がある。米軍の駐留を受け入れる国は直接の「戦場」ではない。ここがポイントである。
アメリカの軍事同盟であるNATO諸国。特にその中でも、冷戦後のドイツは「戦場」ではなくなっている。それでもアメリカ軍は、冷戦後の対ロシア、そして対テロ戦という新しい枠組みの中で駐留を続けるが、ドイツは「開戦」の直接の戦場もしくは被害国にはならない。これが「平和時」の受入国、そして地位協定である。


アメリカの譲歩


「平和時」においては、受入国の「主権」は完全に回復している。「戦時」では”やりたい放題”できても、「準戦時」に地位協定で与えられた駐留特権でも受入国の国民の「主権意識」が許さなくなってくる。「平和時」においてはなおさらである。
そこで、アメリカが経験的に譲歩してきたのが「互恵性」の導入である。つまり、外交特権のように、受入国の軍隊がアメリカに駐留する場合にも、同じ特権を認める方式である。実際は、アメリカ軍の駐留が圧倒的に大きいのであるが、”法的には対等”とするやり方である

*「互恵性」に関しては、下の2本の記事を参照されたい。
世界的にもこんなの異常だ! 在日米軍だけがもつ「特権」の真実 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48780
日米関係の「安定」を本当に願うのであれば、まず地位協定を改定せよ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50705

アメリカは、この「互恵性」の導入を、受入国社会の反米軍感情を制御する効果的な措置と考えてきた。1992年のフィリピンなどで、反米感情が高まり完全撤退する羽目になったことを外交的な敗北と捉え教訓としているからだ。


旧敗戦国のイタリア、ドイツを含むNATO諸国のような「平和時」の受入国とアメリカの地位協定上の関係は「互恵性」がベースになっている。
別の言葉で言うと、この互恵性が「同盟」なのだ

二国間の関係でも、フィリピンのように裁判権互恵性を獲得してる国がある。つまり、フィリピン軍がアメリカに駐留し、例えば公務の自動車で移動中にアメリカ人を跳ね死亡させた場合、アメリカ国内の事件でもアメリカに裁判権はない。
このようなケースが実際に起こる確率は米軍が起こす事故に比べてゼロに等しいとしても、それを想定して、法的な対等性を外交関係に表現する。主権国家同士の付き合いなら、これが当然なのだ。ちなみに、日米間に、これは存在しない。


地位協定で合意される「互恵性」は裁判権だけではない。駐留軍が使う基地、空域、海域の使用/管理権にまで及ぶ。互恵性においてアメリカは「自分が被りたくないことはできない」から、「横田空域」のようなものは、その概念すら存在しない。


受入国に何を持ち込むか、どんな訓練をやるか、それらで有事に何をやるかは、互恵性を平等に確保する「主権」の下、受入国による「許可制」である。
念を押すが、アメリカとの「協議」ではない。受入国の「許可」である。


2003年、米英軍によるイラク侵攻の時にNATOの同盟国であるトルコ政府は、駐留を許していた米軍のイラク攻撃を許可しなかったイラクが報復の反撃をした場合、直接の被害国になるのは隣接するトルコである。アメリカではない。自国の安全と国防の観点から、当然の決断だ。たとえ駐留米軍が、自国軍の戦力を補うものであっても、だ。
同様に、イタリア政府も、アメリカが1986年にリビア空爆した時、国内の基地からの出撃を拒否したリビアと地中海を挟んで一番近く、そして規模の大きい米軍の拠点であるにもかかわらず、だ。



日米地位協定の”異常性”


日本は、韓国のように、「開戦」の直接の被害国にはならない。その意味で、日本はドイツと同等であり、日米地位協定は典型的な「平和時」の地位協定である。


「戦時」➡「準戦時」➡「平和時」と時間が経つにつれ受入国の「主権度」は着実に回復していくものであるが、国際比較をすると日本の対米関係の特異性が見えてくる。
 その集大成を、このたび敏腕ジャーナリスト布施祐仁氏との共著として上梓した(『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』)。本書の中で、日米地位協定には、以下の”異常性”があると結論する
(1)日米地位協定は、「戦時」でも「準戦時」でもない「平和時」の協定なのに、他の国の地位協定と比べてダントツに日本の「主権」が不在であること。
互恵性」が基本のNATO諸国、二国間でもそれを獲得しているフィリピンと比べるどころではない。
今回(2017年11月)のトランプ氏の訪日では歴代では初めて大統領機は日本の管制を経ずに横田空域を通って横田基地に着陸したが、「主権度」がより低いはずの「準戦時」にあたるアフガニスタンでも、こんなことはありえない


(2)日米地位協定は、在日米軍の行動に起因する国民の生命や財産の安全に対する脅威を取り除く日本政府の能力を損なっていること
つまり、国民の生命や財産を守ることは主権国家の政府の最大の責任であるが、それが果たせない。
北朝鮮の飛翔体は、領空侵犯ではないとはいえ、日本の上空を通るのだから落ちる可能性はゼロではない。だからJアラートを使用する必要性は否定しない。しかし、「管制不可能」ということでは同じ米軍機への無感覚との対比に目眩を覚える。


同じく今回のトランプ氏の訪問では、北朝鮮への攻撃の際、アメリカが韓国政府と日本政府に「前通知」事するか否かが話題になった。上記のトルコに加えて、「主権度」が低いはずの「準戦時」の2008年のイラクでも、イラク政府は、米軍がイラクから他国を攻撃することを禁止する条項を地位協定に盛り込むことに成功した。
繰り返すが、アメリカは開戦の被害の当事者ではないのだ。開戦の被害の当事国が、自国国民の安全の観点から、米軍の行動を統制するのは、当然すぎて言うまでもないことなのだ。


しかし、世界で唯一、日韓には、これが無い。
韓国は「準戦時」であることを考慮したら日本は、「平和時」ではあってはならない、国民の安全を第一に考える主権を放棄した唯一の国である。


「緩衝国家」日本の悲劇は、それを盾にしているアメリカが開戦の被害の当事者ではないのに、それでもアメリカの盾になることが日本自身の盾になると思い込む理由を日本自身が見つけ続けること。これに尽きる。

伊勢崎賢治:1957年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。インド国立ボンベイ大学大学院に留学中、現地スラム街の住民運動に関わる。2000年3月 より、国連東チモール暫定行政機構上級民政官として、現地コバリマ県の知事を務める。2001年6月より、国連シエラレオネ派遺団の武装解除部長として、 武装勢力から武器を取り上げる。2003年2月からは、日本政府特別顧問として、アフガニスタンでの武装解除を担当。現在、東京外国語大学教授。プロのトランペッターとしても活動中