22日(金)の朝日新聞13面「オピニオン」に元サッカー日本代表監督岡田武史さんの「『自立』なき国の五輪」と題する記事が掲載されました。読んでみると、「特別な1日」さん(18日)の個なき日本と呼応する内容。岡田さんに文科大臣か首相になっていただきたいと思いました。今の政治家さんたちの口からこういうお話を聞きたいと切に。ひょっとしてネットでと思って探しましたが、朝日の有料会員記事になっていました:
◎今からでも五輪担当大臣交代してほしいくらいですが・・・NHK大河ドラマの「いだてん」でも64年の東京五輪、政治家が五輪に介入する現場を描いています。今回の五輪について、岡田氏も「大義が伝わっていない」として、「本来なら招致の段階から『新しい価値をもたらすんだという理念』をもって夢を語るべきだった」と話しておられます。それでは:
「自立」なき国の五輪自ら決めて行動を
スポーツも社会もおかしなこと多い
元サッカー日本代表監督 岡田 武史 さん
あと8か月に迫った東京五輪・パラリンピックを、日本人が「自立」するきっかけにしようーー。元サッカー日本代表監督の岡田武史さんは、こう訴える。スポーツの祭典に求めたいのは、競技場の建設でも、日本選手の金メダルでもないという。日本代表の監督を2度務めた名将はなぜ、そう考えるようになったのか。
(最初の部分。アスリートも主体的にという話から、「ラグビーの日本代表選手は、主体的に判断してプレーできていたのではないかなあ。これが良い引き金になり、五輪やパラリンピックも盛り上がって、多くの人がスポーツの価値に気づいてくれれば、と思うね。」と、競技中も、自分の頭で判断して自発的なプレーができなければという話。育て方でも、ドイツは褒めて育てるが、日本は出来なかったことを指摘する。それでは勝つための主体性は育たない)。以下、書き移しです:
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ーーなぜ日本人は自立できないと思いますか。
「一度も市民革命を経験していないから、とはよく言われるね。『お上に従っていたら間違いない』というのが染みついている。自分たちで勝ち取った民主主義とか、自由とかという発想がないから、命令された仕事をこなすようになる。仕事なんて自ら探すべきだ。今の日本で、自分たちで何かやっているという実感を持てる人って少ないんじゃないかなあ」
ーースポーツを通じて自立した子どもを育てるという取り組みを、今治で実践していますね。
「日本のサッカーは、『子どものときは教えすぎず好きにやらせろ』と言っておいて、高校生になると、いきなりチーム戦術を教え込まれる。だから言われたことはできるけど、思い切った発想が出ない。自分で判断できないと言われるのではないだろうか。そうじゃなくて、原則みたいのを16歳までに教えて、あとは自由にする。そうしたら、自立した選手がでてくるんじゃないかと思っている」
ーーなぜ、そこまで自立を求めるのですか。
「まずは本当に世界で勝つために必要だと思うから。それと共に、この国にはリーダーではなく、自分で決めて自ら行動するような自立した国民が必要なんだ。ところが同調圧力なのか、何かに従っている方が安泰で、とがったことはしない方がいいという雰囲気になっている」
「スポーツ界でパワハラがなくならないのも、選手が自立していないからだと思う。コーチの言いなりの方が短期的にはいい結果が出る。社会でも、どう考えてもおかしなことがまかり通るくらい、人が自立していないんだよ」
ーーおかしなことが、まかり通っていますか。
「たとえば日本って今、貧困なんだよ。子どもがいる一人親世帯の相対的貧困率は5割と、主要国の中で最悪のレベル。それなのに、みんな関心ないじゃない。『日本人は素晴らしい』という本が書店に並んでいるけれど、日本人の多くは自分の生活が来週、どうなるかで頭がいっぱい。日本だけでなくて、世界中で、その場しのぎの経済政策をやれば、文句を言わないという国民が増えている」
(中略)
■ ■ーー結局、ゆとりがない日本で変化は期待できないのでは?
「こういう世の中でスポーツができることは何かを考えている。スポーツって、売る物の形がなくて、感動や共感、夢とか、目に見えない資本を売っている。今は株価を上げるためにお金を回す方がいいという民意があるけど。もっと目に見えない資本にお金を回していくきっかけに、五輪はなれる可能性がある」
「それなのに、現状では大義が伝わっていないよね。経済効果や国威発揚ではない、新しい価値を社会にもたらすんだという理念を持つべきだ。本来なら招致の段階から夢を描くべきだった」
ーーどういうことでしょう。
「経済的な豊かさだけではなく、心の豊かさのように、目に見えないものを社会にもたらそうということかな。人を育てることや、信頼といった目に見えない資本が経済を回す時代が来ていると思う。グローバル化はもう後戻りできない上に、AIが進化していく中で、人間って何なんだということが問い直されている」
ーーなぜそう考えるようになったのですか。
「今治に行く前は、サッカーの新しい育成法を試すことが一番の目標だったんだけど経営者になって初めて気づいたことがあった。稼ぐことだに振り回されず、人間らしさを取り戻したい人が住み着く地域、街づくりをしたいと思うようになったね」
ーー具体的にどうように?
「まずはスタジアムをにぎわいがありワクワクする場所に、そして絆ができる場所にしたい。将来的には心のより所として人が集う場所になるといいね。そのためにも一人親家庭の月謝を無料にしたり、育成の子どもとコーチで何でも手伝うという活動をしたり、小さなできることから始めている」
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ーー五輪をきっかけに自立なんて、本当にできるのでしょうか。
「スポーツ関係者が主体性をもてないのに、ちゃんちゃらおかしいと言われるかもしれない。でも、基礎を作るくらいはやってみたい。例えばだけど、スポーツ界が社会貢献活動をしたりしてみてはどうだろう。少なくとも、選手が社会を直視し、おかしいことを伝えることはできると思う」
ーー社会を変えるきっかけに使うということですね。
「『平和のために国籍を超えた絆づくりをする』とうたってもいい。競技ごとにファンフェスタのようなものをやり、人同士の絆が生まれる試みをするんです。開会式での国別行進はやめる」
ーー自国第一主義が幅を利かす中、うまくいくでしょうか。
「FC今治では、韓国や中国の小中学生を招待して大会を開いている。最初はぎこちないけど、勝って負けて真剣に一緒にプレーすると、翌日の朝に中国人が韓国人と日本人に声をかけて散歩するようなことが起こるんだよ。五輪で『絆』とか『つながり』ができるような活動ができれば、影響力は大きいと思うね」(聞き手 後藤太輔、編集委員・稲垣康介)