岐路に立つ今「独裁より民主主義、孤立より連帯」そして「利他主義が世界を救う」(アタリ氏)

🔲4月12&13日のブログで取り上げたNHKETV特集 パンデミックが変える世界〜歴史から何を学ぶか~」が前編だとすると、先週土曜11日の「パンデミックが変える世界〜海外の知性が語る展望〜」は「後編」。

「緊急対談 パンデミックが変える世界 〜海外の知性が語る展望〜」

パンデミックとなった新型肺炎。都市の封鎖や大量死が連日報じられている今、人類は大きなチャレンジを突きつけられている。世界はどう変わるのか。人類は今後どこに向かうのか歴史学政治学、経済学の各分野で独自の思想を展開する世界のオピニオンリーダーたちに徹底的に尋ねていく緊急特番。

【出演】イアン・ブレマー(際政治学者)、ユヴァル・ノア・ハラリ(歴史学者・『サピエンス全史』著者),ジャック・アタリ(経済学者・思想家),道傳愛子

◎メインキャスターの道傳さん、しばらく放送でお目にかかっていませんが流ちょうな英語で3人に的確な質問でした。ところで、金曜デモのルポでいつもお世話になっている「特別な1日」さんが、この番組の内容をまとめて書いておられますので引用させていただきます。(引用元:https://spyboy.hatenablog.com/entry/2020/04/13/『ホロホロ鳥のクリーム煮』と映画『ビッグ・リ

普段は職業も立場も意見も異なる3人ですが、内容は
・『現在の危機は1920年代の世界大恐慌以来のものであること』
・『強権的な政府か市民へのエンパワーメントか、格差拡大かグルーバルな連帯か、我々はある種の岐路に立たされていること』、
・『現在の危機をチャンスとして新しい世の中を作っていかなければならない』
というところが一致していたのが面白かったです。

 ・普通に考えると、今回のコロナ危機を切っ掛けにして、強権的な政権が誕生したり、雇用形態や先進国/発展途上国間の格差が一層拡大することなどが予想されます。だからこそ、現代の経済システムや雇用のありかたを変えていかなければならない という指摘です。

・危機に乗じて政権や大資本が自分たちが都合の良いように世の中を変えてしまうこともありますけど(ショック・ドクトリン)、逆にジャック・アタリ先生が『恐怖を感じるからこそ人間は良いほうにも変わることはできる』、そして『強い政権と民主主義は両立しうる(チャーチル時代のイギリス)』と言っていたのも鋭い指摘だと思いました。

🔲朝日新聞の4月8日の「オピニオン」頁は新型コロナについて社会学者の大澤真幸氏へのインタビュー記事でした。内容を写真とダイジェストで:

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大澤真幸(まさち)さん:1958年生まれ。京都大学大学院教授を経て現在はフリー。著書は「ナショナリズムの由来」「社会学史」など多数。

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世界中の人々が同じ危機に直面しており、誰にとっても逃げ場はない。新型コロナウイルスの感染拡大で、私たち人類は「運命共同体」であることを、いや応もなく実感させられた。社会学者の大澤真幸さんは言う。「苦境の今こそ、21世紀最大の課題である『国家を超えた連帯』を実現させるチャンスだ」と。

平等に危機の今 政府上回る機関 力結集し設立を

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🔲一週間後の15日はNHKの「緊急対談」にも出演していたハラル氏への電話インタビューの記事でした。こちらも内容を写真とリード部分と記事を。「独裁の場合は」のくだりは最近の安倍政権にぴったりです。 

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ヘブライ大学教授・歴史学者

 ユヴァル・ノア・ハラリさん:1976年、イスラエルうまれ。邦訳書に「サピエンス全史」「ホモ・デウス」「21 Lessonsー21世紀の人類のための21の思考」。

⁻ーー独裁と民主主義のうち、どちらが感染症の脅威にうまく対応しているでしょうか。

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「長い目で見ると民主主義の方が危機にうまく対応できるでしょう。理由は二つあります。」

情報を得て自発的に行動できる人間警察の取り締まりを受けて動く無知な人間に比べて危機にうまく対処できます。数百人に手洗いを徹底させたい場合、人々に信頼できる情報を与えて教育する方が、全てのトイレに警察官とカメラを配置するより簡単でしょう。」

独裁の場合は、誰にも相談をせずに決断し、はやく行動することが出来る。しかし、間違った判断をした場合はメディアを使って問題を隠し、謝った政策に固執するものですこれに対し、民主主義体制で政府が誤りを認めることがより容易になる。報道の自由と市民の圧力があるからです。

 国境封鎖しても  孤立より連帯を  敵は内なる悪魔

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 🔲この三つを合わせると、コロナ危機の世界の今人類は「運命共同体」として岐路に立つ。独裁か民主主義か、孤立か連帯かという分岐点に立っている。この危機を「国家を超えた連帯」を実現するチャンスにしよう・・・と。

私は2009年1月にこのブログを始めたのですが、そのきっかけになったジャック・アタリ氏の著書「21世紀の歴史」を思いだしました。本の内容をNHKがその年の5月にインタビュー番組で放送、その感想を私もブログに書いていますので引用してみます。

このブログを今年になって始める切っ掛けになった本、このブログの最初「はじめまして」でも触れた「21世紀の歴史」の著者のジャック・アタリ氏のインタビュー番組が今朝NHKで放送されました。

・去年、この本を読んで、未来の暗さに衝撃を受けました。そして、途中、怖ろしさを覚える程ですが、最後まで読んでみると、訴えたいことは未来の予言、世界の終末ではなくて、よりよき未来の為に今行動せよ、ということだとわかりました。

アタリ氏の述べたいことは最後、「私達はこの歴史の観客ではない、ゲームを戦っているプレーヤーであって、このゲームには勝たなくてはならない」ということでした。「観客なら、悲観論、楽観論でゲームの解説を楽しめるだろうが、現実に戦っているものは、楽観論でもなく、悲観論でもなく、敵を知る努力をして、勝つために戦うことだ」ということです。

今の世界は失敗がやり直せる時代ではなくなったという危機意識失敗が世界を滅ぼしてしまう時代になったという認識が基礎にあります。それは核の問題では早くからそうですし、環境問題や、特に去年の世界的な金融危機以来、一国の問題が即グローバルな問題に直結すると言う経験を私達はすでにしていることからも判ります。

二部の「5つの波」は、アメリカ支配の崩壊、多極化、超帝国の出現、超紛争、と悪循環が行き着く先が示されますが、それらを克服する力として超民主主義があげられます。

利他主義」に基づく博愛精神にたどり着けば世界は救われる、というと宗教的な言い方になりますが、アタリ氏はやはり、ヨーロッパの知性の到達点、緻密に論理的に説いています。そして、ご自身、ミッテラン大統領の大統領補佐官として政治の世界での、また、ヨーロッパ復興開発銀行で旧東欧社会主義国家崩壊後の市場経済化を指導された経験が説得力を増しています。

日本では京セラの稲盛さんや文学者の五木寛之さんたちや、あるいは京都や奈良のお寺の宗教者が、同じ事をすでに言っておられますが、まだ、まだ、政治家さんたちには届いていないような気がします。

🔲さて、この記事のトップのNHKETV特集緊急対談 パンデミックが変える世界 〜海外の知性が語る展望〜」の最後のインタビューはジャック・アタリ氏でした。

10年以上経って見たアタリ氏は髪もひげも白く好々爺然となさっていて、ウルグアイの「世界で最も貧しい大統領」と言われるホセ・ムヒカさんに雰囲気が似て来られたように思いました。そして、道傳さんに「利他主義」を問われたアタリ氏から出た新しい言葉が「利他主義は究極の利己主義、合理的利己主義が利他主義ですと他者を大切にすることが自分を大切にすることであり他者を大切にすれば延いては自分に返ってくるということ。新型コロナウィルスの対策にもぴったり当てはまります。

11年前、アタリ氏が言う超帝国、超紛争、超民主主義の「超」は「スーパー」かと思っていましたが、今では「ボーダーレス=国境のないグローバルな」という意味だと解ります。国民国家時代は終わったということです。コロナで国境の復活と言われていますが、これは家の垣根の扉のようなもので地球という地域は一つというのは変わらない。コロナウイルスはすでに国境を越えて世界に蔓延してしまっている。通信、交通、物流、交流はグローバルになり、私たちは「運命共同体」となってしまっているということですね。

🔲今直面する分岐点で私たちが良い選択をするためにどうしたらよいのか。感染症学の山本太郎先生はこう仰っていました。「自分たちの頭で考えたうえでその選択をしていく。上から与えられたものを無条件、無批判でなくて考えたうえで選ぶそこで必要なのが正しい知識の普及。みんなが判断できる材料をたくさん持つということです。」

30年ほど前にやっていた1940年代生まれの読書会グループ「194(いくよ=Let's Go)会」や、その後のお茶飲み話会などでの経験から、情報量が同じであれば同じ情報が与えられれば同じ立場の者同士大体同じ結論に達するのではないかと思います。

人は自分の見たいものしか見ないというのに従えば、安倍さん支持者は安倍さん寄りの情報しか見ないし、安倍さん嫌いな人は安倍非難(批判ではなくて)の情報しか見ないということになります。でも好悪や偏見を捨てる努力をして事実に基づく情報を得る努力をすれば、より正しい意見が導き出せるのではないかと思います。政治に求めるものや日本の在り方について合意できる内容が出てくるのではないかと思っています。

それで、ブログではなるべく知っておきたいこと、今は離れ離れになったお茶飲み仲間にも知っておいてほしいことなどを取り上げています。ある情報を知らないで導かれる結論と、知った上で考えて出す結論は違うはず。それなら知っておく必要のある情報は知っておく方がいいと。

アタリ氏の言葉を聞いて初心を思い出しました。そして11年経っての今、あの本の内容と変わらぬ主張をなさっているアタリ氏に会えてとても嬉しい気がしています。一人一人が歴史に責任を感じるプレーヤーとして、ハラリさんが指摘された「心の中の悪魔=憎しみと強欲と無知」を無くし世界と連帯すればきっとこのゲームにも勝てるはずなんですね。あと何年続けられるか分かりませんが、私もその日を夢見て・・・