「SWITCHインタビュー達人達 選 ”村木厚子X今野敏”(後半)」(郵政不正事件から少女の”居場所”づくりへ)

 「SWITCHインタビュー達人達 選 ”村木厚子X今野敏”(前半)」(組織が生かす個人) - 四丁目でCan蛙~日々是好日~ (hatenablog.com)

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さて前半に続いて、いよいよ後半は今野氏が村木厚子さんの生い立ちや郵政不正事件について、またその後の活動について聞きます。家出を考えたことのある村木さんは拘置所で作業する少女たちを見て、あれはかつての自分だと・・・今野氏に、自分の憧れでもあるという忖度なしの架空の官僚の理想像を託した”竜崎”みたいと言われた村木さんの言葉、ぜひ現役官僚の皆さんに届いてほしいと思います。下の記事中、黒の太字やアンダーラインは画面に字幕が出て強調されたもの。(↓ピンクの字by蛙)

(今年の4月10日に放送されたこの番組は昨年2020年4月11日に放送されたもの)

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後半は官庁街の一角、日比谷公園にある図書館 日比谷図書文化館にて

  <極度の人見知り>

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村木:図書館、子どもの頃、大好きで、居場所なんです。

今、ちゃんと喋っていますが、ほとんど友達と話ができない子どもで、家を出ても一言もしゃべれなくて家に帰る…今日こそ隣の席の子におはようと言ってみようと思っていても、言えなくてそのまま帰る、それを繰り返しているうちに、とうとう席替えで話せないまま・・・

今野:へぇ~それは、想像よりずっと 晩生(おくて)というか引っ込み思案。その頃、将来、何になりたかったと思って・・・?

村木:私、長く勤めたいと思っていた。自分の食い扶持は自分で稼ぐというのが大人だと思っていて、だから公務員しかないと思っていて、片っ端から受け、国家公務員になるとは思ってなくて・・・

   高知県から霞が関へ>

N:高知県出身。一生働き続けたいという思いは中学時代に芽生えた。

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 高知大学卒業後、東大出身者ばかりの霞が関に飛び込み、当時労働省に所属し障害者の福祉の政策に携わり順調にキャリアを積んでいったが、2009年に突如事件に巻き込まれる。

 障害者団体向けの郵便料金の割引制度、これを厚労省が組織的に悪用したとする。局長だった村木は郵便法違反などの罪で大阪地検に逮捕され起訴されることに。実際の犯行は村木の部下によるもので村木は無関係だった。しかし検察は村木が犯人だと最初から決めつけていた。

   <郵政不正事件 無実の罪>

村木:大阪地検に呼ばれて、最初は検察に呼ばれた時「これでやっと説明できる」と思った。

今野:話せばわかると思いますよね。

村木:「上司から指示を受けましたか?」「自分の部下に指示しましたか?」「(書類を)作って渡しましたか?」全部「ノー」と答えた。その日の夕方「あなたを逮捕します」ですから。

今野:どうしようもないですね。否定してるのに、事情も聞かずに・・・

村木:どうしようもないです。「僕(検事)の仕事はあなたの供述を変えさせることです」と言われたので、さあ、誰が真相を解明してくれるのか・・・だから自分が説明すれば分かってくれるという考え方を変えなきゃいけない。じゃ、どうしたらいいの? なかなか、得も言われない状態でした。

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今野:検察はいわゆる”絵を描くという、ストーリーを決めてそれに合うように供述を引き出すそれに合った証拠を積み上げるというやり方ですね。

N:これは村木が拘留中に書いた被疑者ノート

取り調べの様子を記録しておくようにと、逮捕後弁護士から差し入れられたものだ。

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当時の検察側ん強引な誘導を疑わせる言葉の数々。「否認をしているなら厳しい実刑を受けることになるが,それでもいいのか」「皆の供述が一致している中、なぜ一人だけ記憶がないのか」

   <なぜ冤罪は起きたのか>

今野:優しい?口調で言ってますが、相当腹が立ったんじゃないですか?

村木:そうですね、腹がたったというより、自分が一切関与してないし理由が分からない。一番腹が立ったことは基本動作をやってなかったこと。空手を見せていただいて基本動作がありますね、基本の型とかあるじゃないですか・・・歪(ゆが)んでいくときって、真実があるわけですから、歪むときは真実を捨てたり誤魔化したりしてるわけです。基本動作をちゃんとやっていれば、そうはならないはずなんです。

今野:はずなんですよね。

村木:そう、権力持ってる人達なので基本動作をちゃんとやって常に間違いがないか検証するのが大切だと思いますね。

今野:向こうはプロですからね。正しいプロであってほしい。

村木:公務員同士だし…私、わりと職人的な仕事って好きなんですよね、やっぱりいい職人であってほしいと凄く思いますね。あれだけの権力組織が一つの方向に動いたときは怖いですね。

   <組織の暴走が起るとき>

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今野:誰も止められないと思う。彼らは正しいことをやってると思ってる。上司に言われたことをやらなくちゃいけない。(彼らにとって)上司の命令に従うことが正しいこと。捜査の現場では、おかしいと思ってる人が一杯いると思う。

村木:そうですね。

今野:だけど組織の論理で一つの方向に動きだしたら、もう正せないですね。大間違いを犯してしまったわけですね。

村木:ものすごく同質性が強い組織なので、上意下達みたいな空気があるので、一回間違えると大きな暴走になると思いました。

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「ノー」と言えない空気を作らないようにしておかないと皆が間違った方向に行く可能性がありますね。

今野:「ノー」ね~。それは組織の中では大変ですね。イエスマンでいたら楽・・・

村木:素朴な疑問がすごく大事で、初めての分野は意外と仕事が出来る。それはたぶん聞くからだと思う。「聞く」のはいいかもしれないですね。

 役所の組織がいちばん遅れている気がするんですよね。外の空気を入れて変わっていくことが大事かなと思いますね。

N:逮捕から1年3か月。裁判で村木の無罪が確定。職場復帰。

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検察の不正も明るみに出た。厚労省に復帰した村木は重要ポストを歴任。官僚のトップと言われる事務次官まで上り詰めた。女性としては史上二人目だ。今振り返ると、拘置所に入った経験が自身の官僚人生にとって大きな影響を与えたという。

   <拘置所体験で得たもの>

村木:あの時に自分ですごく反省したんですけど、無意識のうちにやっぱり自分は支える側の人間だと、あるいは、誰かを助ける側の人間だと多分思ってた。人さまの為の仕事をして自分でちゃんと食べていけて自立した人間と思ってた。それが、逮捕されて拘置所に入れられたとたんに自分で何もできなくなるそうなると世界が凄く変わって、一夜にして全部支えてもらわないと生きていけなくなるんだ、そういうところが知らず知らずのうちに共感力が失われていたと思うんですよね。

そういう経験があると、相手の立場になって説明するとか、そういうことは良かったかもしれない。

今野:いや~全部、プラス思考ですね~

その時(拘留中)に支えてくれたものは何ですか? わたしならパニックですよ。

村木:パニックに近かったんですが、一つは少なくとも家族は200%信じてくれてる

何かの拍子に娘のために頑張らなきゃと思ったんです。

悪い見本になりたくなかった

あの時、お母さんも頑張れた、頑張るに違いないと思ってもらいたかった。

それに気が付いた瞬間に、もう絶対大丈夫と・・・

今野:すごいですね

村木:”誰かのために”は強いと思います。

   <組織の中のカメ>

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今野:公務員を続けて、どうだったんですか?

村木:そうですね。30歳ぐらい前になって初めて一年、二年おきにポストを変わっていく点が線にやっとつながったと思えた。そこから仕事をやりながら自分のやっている仕事の意味もだんだん分かっていった。だから、ゴールを見て進んでいったというより足元しか見てなくて階段を踏み外さないように山を登ってるようで、行きついた所がたまたま事務次官だった。

今野:たまたま行けるポストではないですが。あのね、だからよかったんだ。

余計なことを考える余裕がなかったので・・・余計なことを考えると策に溺れるんですよね。忖度したり上司の顔色伺ったりでかえって遠回りすることに。コツコツとウサギとカメのカメのように、ずっと足元を見ていて、気がついたら誰よりも早くゴールに着いていた。

   <少女たちの居場所づくり>

2015年、退官した村木が今取り組むのは、若い女性の支援だ。

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瀬戸内寂聴氏と共に支援団体”若草プロジェクト”を立ち上げた

切っ掛けは拘置所で知り合った受刑者の少女たちだ。薬物や売春の罪で服役する少女たちは自分の力ではどうしようもない状況に追い込まれた被害者であることを知った。

 プロジェクトが担うのは彼女たちを社会の支援につなぐことだ。直接少女たちが助けてと言えるようなSNSの相談窓口や一時的な避難場所になるシェルターも作った。

村木の一番の役割は知名度とネットワークを生かし民間や行政に協力を求めていくことだ。

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村木:今(彼女たちは)もの凄く冷たい水の中を泳いでいる体温を奪われ体力を奪われて水の温度が少しでも上がると同じ泳ぐにしてもぜんぜん違うので・・・

N : 少女のために奮闘する村木。情熱の源は、実は拘置所体験だけではない。自身の子ども時代と少女たちが重なって見えるという背景には村木の独特の生い立ちが関係していた。

   <家出を考えた少女時代>

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村木:ある時、子どもだったので「この家の中で私は邪魔だ」と思い込んでいた時期があった。小学校の高学年か中学年ぐらいかな、家出をしようとした

今野:何かきっかけがあったんですか?

村木:生みの母が早くに亡くなって、記憶もないし顔も知らない。父は再婚して優しい母親がいた。とても幸せにその人を本当のお母さんだと思って暮らしていたのに、ひょんなことで実の母でないと分った。妹が生まれていて、そうすると「私だけ…異物だ」みたいに思ったことがあったんですよ。

それで「何とか家出をしたい」と思って、じゃ、私が家出をして食べて行け方法のは何だろうと考えて、子ども心に「子守りかホステスと思ったんですよ。でも、当時は、それは出来なかったんですよ。小学生をホステスには雇わないし、、、子守りもところが、今なら出来てしまうじゃないですか

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SNSで「今晩泊めてくれませんか?」とか「JK(女子高生)ビジネス」とかは幼いほど”商品”になる。だから子どもの頃、切実に思いこんでいた自分が今の子と重なるんですね。

拘置所で見た受刑作業をしていた女の子たちがいる・・・本当に可愛いんですよ。ものすごく素直で真面目に仕事をしていて、いい子たちで。あの子たちは特別に変で悪い子たちではなくて幼い頃の私だと思うわけですよ。

今野:そのリアリティが大切だと思う。話をして、この人は分かってくれると子どもたちは思ってしまう。そういう共感があれば感じてくれますよね。

村木:自分と地続きの問題があって、色んな人に知ってもらいたいと思うし、子どもが変わったわけではなくて、社会の罠とか闇が深くなっている、リスクが高くなっていると思うんですよ。

   <今野が描くヤクザと若者>

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N : 今野も又若者が置かれている現状に心を痛めてきた。

その思いが表れたのが、いわゆるヤクザが主役を務める「任侠」シリーズだ。社会奉仕がモットーの親分の元に元暴走族などのはみ出し者の和い衆が集い、潰れかけた企業や学校を建て直そうと奮闘する。

今野:あゝいう反社会的な勢力の人たちが大嫌いで、気が弱くて怖くてしょうがないんで、だけど、やっぱり、その時、いろいろ調べていくうちに私自身、ショックだったんです。つまり、悪い奴が”やくざ”になるわけではないんだ。みんなヤクザに成りたくてなる奴ばかりではない。行き場のない奴はどうすればいいんだ。親に虐待され仕事もない。その子たち、どうすればいい、そういう思いがずっとあって・・・。

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それに携わる若い衆は社会的参加がしたくてしようがないんですよ、やったことがないんだから。他の奴は学校卒業して就職して、友達はね。それを指くわえて見てると羨ましくて悔しくしょうがないんですよ。そういう人たちはごまんといる、今の日本に

   <居場所と出番づくり>

村木:本当に、昔のように、例えば地域とか大きな家族とか親類とか、そういうものでカバーできたものが無くなっていて、小さい家族と非常に同質性の高い学校しかなくて、其の2つの行き場がなくなると第3の居場所が若い子にはないんですよね。そうするといろんなところに絡めとられていく。

 今の政権になって、女性活躍、一億総活躍と言われて、それもすっごく大事だと思うんだけど、これだけスタートライン立てていないそれも自分の所為ではなくて、色んな状況でスタートラインに立てていない人がいる。なんか、ちょっとずつでいいからなんとかできないかと思って・・・

今野:ほんとに全部救おうなんて大それた話じゃないんでよね。ちょっとずつでいいから何とかできないかなーという。日本っていう国はどうなっていくんだろうと・・・でかい話になってくる…そんなに難しい話じゃない。隣りの人とあいさつしましょうという話なんですよ。上司と話をしようとか、心配な子がいたら声をかけようとか・・・

村木:色んな会合に行った時に、私たちに出来ることは何ですか?と聞かれて、いちばん簡単で大事なのは、やはり挨拶。おはようと声を掛けてあげて、子どもが朝自分の家の前を通ったときに、おはよう、おかえり、と言ってあげてと言うんですが。小さい時おはようって言えなかった私が言っていいのかって気がするんですけど。

今野:その当時出来なかったことを今ちゃんとやってらっしゃるんだから・・・

村木:色んな支援を直接できるかと言うと出来ないので、応援団の応援団ぐらいはしたいなと思ってるんですけど。

今野:さっきから警察と検察、ダメだって話ばかりしてたけど、そうじゃないと思うんですよ、(警察と検察も応援しなきゃいけない

村木:応援しなきゃいけない。

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今野:ただね、より良い警察官の姿とかを書きたい書くとお手本になる。そういう気持ちもありますね。村木さんのような人がず~っと役所にいてくれたらな~

村木:いいえ~もちません。

後輩とか、大事だと思うところで応援しながら、スタートラインに立ててない子に居場所と出番づくりですかねー

今野:お願いします

村木:じゃ、書き続けてください。

今野:私はそっちの方で頑張りますので、お互いにそれぞれの立場で

頑張りたいと思います。なんとなくまとまったね。

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村木:はい今ので・・・

事件の時って感じの悪い映像をいっぱい流されるんですが、その、ウチの面白い娘が、事件の時、「お母さん”美人官僚”とひとつも書かれていないねぇ」

今野:ヒドイ!

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村木:「マスコミにも、つける嘘とつけない嘘があるんだー」と。

   ヒドイと思いません? 

今野:ヒドイッ! ヒドイ!

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NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN おわり