NHK【特集ドラマ】「むこう岸」(5月6日)と生活保護法

5月6日、NHKで放送された特集ドラマ「むこう岸」は、ヤングケアラーと生活保護を扱ったドラマで、ずばり、生活保護法第一条がテーマになっていました。そこで、生活保護法を第三条まで:

第一条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

第二条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護   を、無差別平等に受けることができる

第三条 この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない

◎私が8年足らず務めた民生委員・児童委員を辞めたのは、このブログを始める前の年でしたので、今年で丁度15年になります。なったばかりの1年目に、担当地区で生活保護の問題に直面しました。市役所の福祉課の生活保護担当者や民生委員の地区の責任者に相談したり、同窓生の自民党の市会議員を訪ねた時には、いつもは敵視している共産党を訪ねればいいと言われ、怒りを覚えたこともありました。生活保護が権利だという認識は、生活保護を必要とする方にこそ必要だとその時思いました。

こどもの日を意識した番組だったと思いますが、主人公は難しい入学試験に合格した難関有名私立中学校を落ちこぼれて、地元の公立中学校に転校した山之内和真(かずま)と同じクラスの生活保護受給家庭の佐野樹希(いつき)。和真は閑静な住宅街に住む3人家族。公立中学校も樹希の暮らすアパートもこの橋むこうにあり、ドラマの中で、この長い橋が象徴的に、繋ぐ役割や、隔てる役割を果たしています。

二人が出会ったのも、この橋の上。和真はある日冷蔵庫に入っていた梅酒を間違って飲んだことから、気分が悪くなって、橋の上から飛び降りそうになります。そこへ、幼い妹を連れた佐野樹希(いつき)がやってきて、目が覚めたら、コーヒー店の二階の和室に居ました。樹希が連絡して倒れた和真をマスターが運んでくれたようです。

樹希は病気の母親に代わって家事もこなすヤングケアラー。学校では心ない男子生徒らに生活保護を受けていることを「働かなくてもおカネをもらえて、ずるい」「得しているのに隠している」「Tシャツに生活保護と書いておけ」とからかわれても、体操服の胸に「生活保護」と大書して、教壇に立ち「皆さん、私たちを養ってくれて、どうもありがとうございます。これで満足!?」と言い放つほど気の強いしっかり者です。

学校では、3年生を迎えるのに備えて進路希望調査を渡されます。和真は樹希が看護師になりたいという夢を諦めなければならないのを知って「理不尽だ」と思い、図書館で「生活保護手帳」を見つけて生活保護法や制度の勉強を始めます。和真は勉強が好き。本当の勉強が始まります。

茶店のマスターは二階の和室を子どもたちの放課後の居場所に開放していて、和真はそこで父親の虐待で声が出ない男の子・アベルと出会います。運ばれて目覚めた最初の日、樹希が和真の転校の秘密をばらさない代わりにアベルに勉強を教えるよう取引を持ち掛けられていました。そして、どうも和真は勉強を教えるのも上手だと分ります。

家でパソコンでも生活保護について調べている和真を見つけた父は「甘やかしすぎ、貧しいのは努力しなかった責任で、税金で養う方がよっぽど理不尽」とパソコンを取り上げます。母親は「その女の子とお付き合いしてるの?」と問い、「そんなんじゃない」と答える和真に「よかった」と。「よかったって、どういうこと?」と問い返す和真に、母親が「してあげられることは何もないでしょう」と言います。

そこで、和真は『自分がしてあげられること』を考えます。塾を休んで図書館へ行き、ぶ厚い法律書生活保護手帳」を見つけます。市役所の福祉課で生活保護について調べる和真。

そこで会った塾講師の湯川先生は大学で社会福祉学を専攻したという元ケースワーカーで、「世帯分離」によって、子ども世代が要保護対象から外れることで、高校卒業後の進学の道が開けることを教えてもらいます。

生活保護法の第一章の第二条「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる」。

制度は知っていなければ損をする。法律用語って解りにくいし難しいけど。生活保護を受けることは決してずるくない、権利なんだ。人間を信じてもいい気がする」「なんで信じるの? 本の話でしょ。現実は違うよ」と二人は一致できません。それから以後、樹希と会えなくなった和真は分厚い2冊の法律書に「世帯分離」について調べたノートと湯川先生の名刺を挟んでアベルに預けます。

その後、父親が川向こうのコーヒー店の二階にいた和真を見つけ出し「ここはお前の居場所ではない」と家に連れ帰りました。「努力は裏切らない、失敗はやり直せる」と受験のための勉強を強いる父親に「やり直したいのはお父さんでしょ」と言い返す和真ですが、樹希たちとは会えなくなってしまいました。

樹希が訪ねた和真の塾の湯川先生が生活保護について話します。申し訳ないとか、恥ずかしいとか、みんな言うの。でもね、情けなかろうが何だろうが、助けが必要な時は必要なの。嘆いても責めても人は変われない。もし変われるとしたら、誰かと関わりを持った時だけ。それができなくて、泥沼にはまる人をいっぱい見てきた。あなたはどうなりたい? 

私は、国からお金をもらわなくても済むようになりたい。出来れば看護師になって困っている誰かを助けられる人になりたい

立派な目標だと思う。それを叶えることはあなたの為だけじゃなくて社会のためにもなるのよ。そう、あなたが、生活保護受けるのと引き換えに、将来、社会に貢献できるのと、どっちがプラスになると思う? だから、胸を張って使えるものを使ってあなたは、施しを受けてるわけじゃない。社会から投資されてるんだよ

樹希は動き出します。生活保護担当者にはホームヘルパーさんをお願いしました。「これ以上、恥ずかしい」という母親に「今更、なに? 今の状況を受け入れて、ここから立て直して、三人でしぶとく生きるんだよ」と叱咤する樹希の気迫に、母親も「よろしくお願いします」と担当者に頭を下げます。

父親の叱責を受けた和真は2階の自分の部屋のベッドに横になっています。外で樹希が話しかけています。「あんた言ったよね、制度は知らなきゃ損をするって。私、決めたんだ。使えるものは使っていこうって。だからやるしかない。やってやるよ絶対。やっとスタート地点に立てたんだよ。アベルがこんなにやる気になるなんてすごいよ。お前、アベルの先生だろ。私にもややこしい制度を調べ上げて、夢見ていいと教えてくれただろ。」

山之内和真お前みたいなやつがこの世にいてくれないと困るんだよ

 だから...逃げんな」と、彼女なりのエールを送ります。

棚の上にあった「自学ノート」を手に取りながら「なんで勉強するんだろう、その理由を忘れてた。そう、僕は小さい頃から勉強が好きで、知りたいと思うことを・・・」と、和真は、何か、ハッと気づいたようす・・・

すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。」

外に出て走り出しながら・・・「僕はこの一文を美しいと思う。この美しくも難しいものを必要な人にかみ砕いて分かり易く伝えることが出来たら・・・

あの橋を目指して走りながら「今を生きる人に、自分が勉強したことや知識を広げて行けるなら・・・」

和真は叫ぶ、「佐野さ~ん、アルバく~ん」

あの橋の、むこう岸へ…

★現代ビジネスの記事は、原作を脚本化して映像作品にするドラマの制作過程を取り上げています。主役の3人が、それぞれピッタリですが・・・

NHKドラマ『むこう岸』制作秘話…子どもの間で起こる「貧困の壁」の”生易しくない世界”のリアル【5月6日放送】

NHKドラマ『むこう岸』制作秘話…子どもの間で起こる「貧困の壁」の”生易しくない世界”のリアル【5月6日放送】 (msn.com)