- 作者: 蓮池薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/06
- メディア: 単行本
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拉致問題に特に触れて書かれているのではなくて、8日間の韓国旅行の旅行記が第一部、第二部は新たに翻訳家としての自立にチャレンジする過程を韓国の流行作家の女性との親交を通して書かれている。
読んでいて、著者の人柄の良さ、人間的な魅力がにじみでてとても気持ちが良い。もちろん、拉致問題について、残された被害者の一日も早い帰国を望まれていることもひしひしと伝わってきます。
韓国を訪ねる旅も比較するのは拉致されて24年間を過ごした「北」であり、その24年間を中抜きした日本であるという点が、はからずも拉致被害者・蓮池薫その人のあり得ないほど数奇な体験を語っています。
朝鮮戦争がどうやって始まったのかは、北と南では全く逆、お互い相手が始めたと主張し合っています。蓮池さんは今となってはどちらも信用できないと書いています。そして、「朝鮮半島を事実上支配していたソ連やアメリカは、自らの国益のためには朝鮮半島を自らの代理戦争の舞台にすることも辞さなかった。その狭間で数百万人の韓国人が死に、今なお離散家族問題が千万の人々の心に深い傷を刻み続けている。韓国国民の「恨(ハン)」は、消えないどころか、いまなお募るばかりなのだ。」と、韓国民には深い同情を示されています。
色々興味深いエピソードの中でも、もともと北朝鮮で作られた歌「イムジン河」には心を打たれました。蓮池さんが拉致されたのは22歳の時(1979年)ですから、最近亡くなられたあの加藤和彦さん達のフォーククルセダーズが歌った「イムジン河」はお馴染だったのです。北で拉致されていた90年代後半に日本でも人気のあるキム・ヨンジャさんが北のイベントに招待され、このイムジン河を歌ったそうです。その後、蓮池さんは自分でギターを弾きながら、この歌をよく歌ったとか。北の周りの人たちには南北統一への願いを込めて歌っているように取れたかもしれないが、本心は、日本への望郷の念、止みがたしだったそうです。
現在大学でも教えておられて、韓国留学生への異文化コミュニケーションについての指導ぶりなどは感心させられます。拉致被害者として北で覚えなければならなかった朝鮮語を武器に日本での新しい生活をスタートされての奮闘ぶりもユーモアを交えて書かれています。北朝鮮と韓国、韓国と日本、両者のかけ橋としての役割を自ずと果たしておられます。この異文化、異体制、異次元体験されたことから物事を客観的に見る目と冷静さ穏やかさを身につけられたように思いました。
雨上がりの朝に