ドラマの最終回(三浦春馬さんと「私たちはどうかしている」)

◎9月27日の日曜日、見ていたテレビ画面の上の竹内結子さん死去の速報には本当に驚きました。まだ40歳、中学生と今年生まれたばかりのお子さんを置いて、なんで・・・。あれは緊急事態宣言が出ていた頃の自粛期間だったか、長澤まさみさん主演の大ヒット映画「コンフィデンスマンJP ロマンス編」という昨年公開の映画をテレビで見ました。今年7月に自死した三浦春馬(30)さんと竹内結子さんが重要な役で出演していました。こんな面白い映画の元になるドラマがあったのと再放送ドラマも見ました。シリーズの主要キャストの一人は東出昌大さん。今年初め東出さんがSNSで叩かれた時、三浦春馬さんがツィッターに擁護の意見を発表したそうですが、この映画の繋がりだったのですね。

先日、「徹子の部屋」で小柳ルミ子さんがコロナ禍で仕事が来なくなって引退しようと思っていたら桑田佳祐さんが歌唱を褒めたツィッターを書いてくださっていることを知って思いとどまったという話を終始涙を拭いながら話しておられるのを見て、華やかな芸能界ゆえの特殊な問題もあるのかな~と思いました。芦名星さん(36)や藤木孝さん(80)とこのところ続きますね。

f:id:cangael:20201007134444j:plain

さて火曜日はその三浦春馬さんのドラマ「おカネの切れ目が恋の始まり」の最終回でした。このドラマの収録中に突然の不幸でしたので撮った分を放送することにして4回目の最終話は三浦春馬さんの出演はなく回想シーンを使っての追悼番組のような内容になっていました。代わりにロボットの猿彦が大活躍でしたが、番組スタッフや出演者にこうやって送られる三浦さんの人柄が偲ばれます。

その前の週の9月30日はNTVの「私たちはどうかしている」の第8話最終回スペシャル。2時間ですので実質9話までということでコロナの影響で1話分が減ったことに。

f:id:cangael:20201008153531j:plain

(第1話から↑プロポーズを受けてお菓子持参で乗り込む七桜と花嫁姿の栞と椿)

コロナがこんなに世界中に蔓延して大変なことになる前、金沢ロケから始まり、その後ソーシャルディスタンスやフェースシールドを使ってのリハーサルや収録、緊急事態宣言による収録ストップ、その後再開されるも7月20日にはダブル主演の一人横浜流星さんが感染。漏れ聞く収録の様子に一喜一憂。8月に入って12日から放送スタート、その間、私にも8月には妹の死去、9月には母の退院・入所があり、両親と夫の故郷の加賀の小松市や金沢の老舗和菓子店の物語は忘れられないドラマになりました。

複雑に入り組んだお話を追っていると長くなりますのでドラマのサイトにお任せして、

◎私が最終回でもらい泣きしたシーンを2つ並べることに:

大旦那の部屋の色壁は渋い緑色。お正月を迎える床飾り。

床の間の横の棚には絵皿や九谷焼の壺が置いてあります。

f:id:cangael:20201008112048j:plain

椿が結果を待つ仏間。

北陸の仏壇はどこも豪華です。右手の下の棚に伝来の御菓子の道具箱が。

 f:id:cangael:20201008112323j:plain

七桜の作った姫柚子を丸ごと使ったお菓子。椿のは祖父が父に教えたつばき餅。

道明寺を椿の葉で挟むシンプルなお菓子。

f:id:cangael:20201008111541j:plainf:id:cangael:20201008111648j:plain

光月庵の血を引く七桜(浜辺美波)と、跡取り息子として生まれていながら母今日子(観月ありさ)の不貞の子、血の繋がらない孫として当主の宗寿郎(佐野史郎)から疎まれて育った椿(横浜流星)の二人に、血縁と関係なく魂を震わすようなお菓子を作った者に光月庵を譲るという除夜祭の御菓子対決で勝ったのは七桜だった。負けた椿を激しくなじる今日子を止めに入った宗寿郎は倒れこむ。

f:id:cangael:20201008095529j:plain

死の床にある彼が枕元に呼んだのは椿。椿が作ったお菓子は光月庵の一子相伝の”つばき餅”。父樹に初めて教わったお菓子。その味を忘れるわけがない。「美味かった。だが、あれは私だけに向けられたお菓子、あれを選ぶわけにはいかなかった」と。

この18年間、ただ大旦那に褒められたい認められたい一心で腕を磨いてきた椿に宗寿郎は「つらく当たって済まなかった」と詫び「これからは自由にお前の作りたい菓子を作ればいい」と当主として自分も感じてきた呪縛を解く言葉をかけて事切れる。椿は「二つ。たった二つだけ。これからもっともっと食べてほしかった」と涙する。生前、宗寿郎が口にした椿の作ったお菓子は”落とし文”という菓名のお菓子と最後の”つばき餅”の2つだけだった。切ない願いに泣きました。

f:id:cangael:20201008095726j:plain

◎2つ目は母今日子との別れのシーン。当主の宗寿郎に家柄で選ばれた嫁として光月庵に嫁ぎながら、夫の樹(たつき)には中学時代からの恋人百合子がいて、娘まで生まれて菓子職人として住み込んでいる。自分にも子どもさえいればと愛なき相手と不倫の末椿を生み、光月庵を血筋ではない椿に継がせることで復讐を果たそうとする。

今日子と不倫の相手の息子多喜川薫(山崎育三郎)と、今日子が犯人かと真相を迫る七桜と椿。四つ巴のセリフ劇とアクションシーンの末、全てが明らかに。

f:id:cangael:20201008142321j:plainf:id:cangael:20201008141823j:plain

15年前、高校生の多喜川薫は、父が光月庵の女将の今日子と不倫をしているのを知った母親が自殺未遂をはかり家庭が壊された恨みで女将に会うため包丁を持ってある朝光月庵へ。樹に見つかって誤って刺し殺してしまう。自首しようとした3年前、小松市で菓子職人として成長した七桜を偶然見つける。自分の所為ですべてを失った七桜に、罪滅ぼしのため光月庵を取り戻させようと画策する。

f:id:cangael:20201008143027j:plain

除夜祭の御菓子対決で勝った七桜が正当な後継者となった今も女将の憎しみが七桜に向かうのを知って、多喜川はこの日、今日子を殺して自首するために警察にも連絡していた。これ以上大切な人を奪うのは止めてと止めに入った七桜。椿の兄にもあたる多喜川薫は逮捕されて。。。。

f:id:cangael:20201008141758j:plainf:id:cangael:20201008142517j:plain

憎しみに捉われて息子を後継ぎにするための悪行の数々、その結果壊れた息子椿との関係に絶望して表をさまよう今日子はトラックの前の幼児の姿に幼かった椿を重ねて、子どもを救って自分は轢かれてしまう。病院に駆けつけた椿は自分の目の角膜移植のために今日子が臓器提供の献眼の申し込みをしていたことを知らされ、初めて母親が自分を息子として愛してくれていたことを知り嗚咽する。この不幸な母子にもらい泣きしました。

f:id:cangael:20201008102217j:plain

◎七桜を演じた浜辺美波さんは、この時まだ19歳で前半の21歳と3年後の24歳を演じています。七桜は6歳で母と死別、養護施設で育ったが前向きでしっかり者、優しいけれどはっきりした性格。同い年の椿よりも人生経験はあるので二人の関係ではリードしているぐらい。女性が読むコミック誌が原作なので自立した凛とした大人の女性を描いていて、それを浜辺さんは魅力的に演じていました。

一方、横浜流星さん(収録時23歳)が演じる椿は心に闇を抱えてその言動は不可解なくらい常軌を逸しているが、七桜と暮らすうちに、自分の立場やお菓子への想いを理解し、時には大旦那に逆らってまで椿の想いを代弁する姿に愛情を抱くようになる。一見突っ張っているようで内面はナイーブ、次第に相手の立場を尊重して優しくなる椿を繊細に演じました。前半の最後で火事になりその時網膜を傷つけ次第に目が見えなくなる難しい役でしたがとても良かったと思いました。

f:id:cangael:20200927164256j:plain

◎二人のラブシーンがうっとりするほど美しいというのもドラマでは珍しいように思いました。二人が着物姿だったこともあるかも。逆に椿が大旦那の葬儀後のシーンで黒づくめのスーツ姿で現れるところは椿と七桜の立場が逆転するシーンですが、ドキッとするほど新鮮で衣装が生きていました。

光月庵の正当な後継ぎとなった七桜に「すべてを取り戻せてよかったな。光月庵は絶対につぶさないでくれ」と最後の願いを言い置いて出ていく椿ですが、七桜が椿の目の治療のために光月庵の重荷を取り除いて代わりに自分がという本当の気持ちには気づいていない。このあと夜になって先ほどの4人の修羅場となる。

f:id:cangael:20201008112900j:plain f:id:cangael:20201008112948j:plain

◎昨日のブログ「空が青いから…」に通じる椿の優しさについて。

終盤、太鼓橋の真ん中で2度のキスシーンがあります。1度目は除夜祭の御菓子対決の2日前。12月29日。二人の思い違いによる誤解が解けて思わず駆け付けた橋の上、でも七桜にはまだあの事件のわだかまり(母を殺人犯にしたのは6歳の椿の「さくらのお母さんを見た」という一言だった)があり、対決の後は二度と会わないと。椿はその決意を尊重して伸ばした手を引き戻して去ろうとする。声をあげて泣き続ける七桜に素早く戻ってきた椿が「泣くな、帰れなくなるだろ」と小雪舞い散る中優しく包み込むように抱きしめる。

f:id:cangael:20201008100111j:plain

2度目は、葬儀も終わり、当主殺害事件にも決着がついて光月庵を切り盛りして忙しく働く七桜。ベテランの職人に「今日は椿さんの退院の日ですね」と言われて、七桜は母の形見の椿の花びら型の型抜きを手に取って走り出す。

このとき七桜はすでに血の赤のトラウマを克服して赤い色を使って母の残したレシピの桜の花びらの羊羹づくりに成功。椿も手術前に七桜が目の手術のために光月庵の当主になろうと思ったことを知った。手術が無事終わった椿は再び着物姿で、やはりあの太鼓橋に向かう。再び太鼓橋の上で会う二人。今度はトラウマを克服した七桜からの初めての愛の告白。「光月庵に戻って。私には椿が必要なの。初めて出会った時からずっと、どうしようもなく好きなんです」。椿は「帰るところは一つ、七桜の傍しかない、好きだ」と言ってから「お前を愛してる」と優しくハグして微笑みあって大団円となります。

f:id:cangael:20201008144458j:plainf:id:cangael:20201008144556j:plain

愛されることで、また愛することで、あれほど相手の気持ちにお構いなしの強引かつ一方的な椿の「好きだ」が、相手の気持ちを大切に寄り添うような優しさの「愛してる」へと変わる、成長できる。人は酷い目にあって苦労した人ほどやさしくなれるのではと思います。

◎今時あり得ない話と思いましたが、考えてみると母の実家でも60年ほど前にあったこと。先祖伝来の家屋敷田畑の為に結婚相手を親や親せきが決めるというのは現実でした。今は亡き従兄とその頃高校生だった私より少し年上のお嫁さんは可哀そう…と同情していました。不幸な結果に終わったので余計気の毒でした。家は3代100年も持てば上等。それが100年以上、400年も続くというのは本当に並大抵の苦労ではないでしょう。そんなことも考えたり・・・

◎ヤフーの記事は消えることがありますので源氏物語に言及される後半部分をコピー:

30年前の若い役者が憧れた世界

 なお、物語の舞台となった「光月庵」は創業400年という老舗。しかし、ここで描かれた“和風ドロドロ愛憎”ドラマというジャンルの原点はさらに古く、1000年前の「源氏物語」にまでさかのぼります。  その伝統を大いに感じさせたのが、第5話でした。主役の2人が浴衣姿で、星空のようにきらめく蛍を眺めながら語らいます。これは「源氏物語」で光源氏が、かつての愛人の遺児である玉鬘(たまかずら)の美しさを際立たせるため、大量の蛍を放つ場面を思い出させました。

 そんな自然と恋愛、芸術とを融合させる美意識は、日本文化の肝というべきもの。昭和の時代には、川端康成谷崎潤一郎の文学が映画やドラマにも影響を与えました。その終盤、この系譜を受け継いだのが立原正秋の小説とそれを原作とする映像作品です。  1980年の連ドラ「恋人たち」(TBS系)は、32歳の根津甚八さんと23歳の大竹しのぶさんのコンビでヒット。1985年公開の映画「春の鐘」では、浜辺さんの事務所の先輩でもある26歳の古手川祐子さんがヒロインに起用されました。この年、27歳で亡くなった夏目雅子さんは白血病の闘病中に古手川さんの起用を知り、自分がやりたかったと悔しがったそうです。  また、1990年前後のトレンディードラマブームで、W浅野の一人としてブレークした浅野ゆう子さんは、立原文学のヒロインを演じられる女優になりたいと話していました。

 つまり、今から30年ほど前には、20代30代の役者たちが憧れるような世界だったわけです。 「わたどう」の成功は、そんな世界にまた光が当たるのではという予感を起こさせます。それこそ「花筏(はないかだ)」「落とし文(おとしぶみ)」「空明(くうめい)」といった名前からして魅惑的な劇中の和菓子が注目されたように、長年かけて培われた美意識に基づくドラマや映画がこれからまた増えていくのでは、という気がします。

 浜辺さんや横浜さん、そして脇を固めた高杉真宙さんや岸井ゆきのさんにとっても、この作品に出たことは今後、強みとなるでしょう。「源氏物語」以来の伝統を令和型にアップデートした“和風ドロドロ愛憎”ドラマの可能性。それが若手たちによって切り開かれていくことに期待したいものです。

作家・芸能評論家 宝泉薫