生命誌研究者・中村桂子さん「コロナをきっかけに”人間らしい暮らし”を取り戻すチャンスがやってきました」(ハルメク)

◎今日はもう1月31日、コロナで暮れてコロナで明けた2021年も残り11か月。1日1日大切に暮らしていきたいと思います。先日香住の鮮魚が届いた日、Sさんにお魚を届けた代わりにハルメクの2月号を受け取ってきました。そのなかの「リレー連載/こころのはなし」、生命誌研究者・中村桂子さんの「コロナとの向き合い方」最終回でした。

第1回はコチラ:生命誌研究者・中村桂子さん「”地球に優しく”なんて、人間の”上から目線”」(コロナとの向き合い方) - 四丁目でCan蛙~日々是好日~ (hatenablog.com)

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生命誌研究者・中村桂子さんと考える「コロナとの向き合い方」

最終回

コロナをきっかけに”人間らしい暮らし”を

取り戻すチャンスがやって来ました

 「生命誌」という分野のパイオニアとして、研究を牽引し、同時に、二人の娘の母の役目も務めてきた中村桂子さん。コロナを経験したからこそ、一人一人が、自分らしく生き、新しい方向に向かっていけるきっかけについて伺いました。

 2021年が始まりました。コロナ禍をきっかけに、効率重視、経済優先の社会から本来の人間らしい「時間」の使い方に戻るチャンスの年になってほしいと思います。

 新型コロナウィルスのワクチン開発は急ピッチで進められています。でも、急ぎ過ぎてはいけません。これを書いている時点では、欧米の企業が開発したワクチンの接種に英国や米国が動き始めています。効果や副作用を見ながら慎重に進める必要があるでしょう。

 物事にはそれぞれに必要な「時間」があります。生まれた赤ちゃんが大人になるまでには長い時間がかかりますね。それが生きることです。1歳の子は生まれてからの1年で経験・成長する時間の意味があり、3歳の子には3歳の意味があります。1年で急に20歳になってしまったら、20年分の大切な経験ができません。スピードや経験でなく、プロセスを大切にすること。それが命を大切にすることなのです。

赤ちゃんが大人になる時間を短くしても

意味ありません。プロセスが大事なのです 

  コンピューターなら、今はこの計算に1分かかるけれど、技術開発に寄って30秒に短縮することができます。でも、赤ちゃんを半年で1歳に育つようにする技術はありませんし、それには意味がありません。工業製品を効率よく作ることには価値があるので、今の社会は人間まで機械のように見ているのではないでしょうか。一人一人違う子が、それぞれに合った生き方をするのが難しくなっています。

 職場でも学校でも、「早く早く」と急かされますね。機械のように答えを早く出せなければダメだよと。東京シューレ学園という、不登校の子どもたちのための中学校で「アリも人間と同じ長い時間をかけて生まれてきた生きものだから、むやみに潰したりしないでね」というお話をしました。同時に「だけどお肉は食べるでしょう。あなたが生きていくためには、牛や豚を殺さなければならないわね」とも話しました。

 アリはむやみに殺してはダメ。だけど人間が生きるためにはお肉は食べる、ある意味矛盾することです。〇か✖かでは簡単に答えを出せないことがある正しい答えなどないことも多いのであり、そこに至るまでに色々考えることが大切だと伝えたかったのです。すると生徒の一人が「僕は、初めて○か✖じゃないという話を聞きました。これまでずっと、〇なのか✖なのかと聞かれて、早く答えないと叱られてきました」と言うのです。それで不登校になってしまったのですね。この子はとても「生きもの」らしく、自分らしく考えることを一生懸命にして生きてきたのに。

正解よりも考える過程が大切

科学に「絶対正しい」はありません。

時間をかけて、考えることが大切です

(この項、省略)

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分散して暮らせば地球に優しい

 昨年10月24日に、ホンジュラスが「核兵器禁止条約」に批准して50カ国・地域に達しました。この1月22日に史上初めて核兵器を非人道的で違法とする国際条約が発効します。残念ながら唯一の被爆国である日本が批准していませんが、この発効はコロナを経験した人間・地球にとって大きな進歩だと思います。

 おりしもSDGs(持続可能な開発目標)など、環境問題の意識も高まっています。このシリーズの連載の第一回目で、人間がどんどん開発を進めたことが、新型コロナウィルスが出てきてしまった原因の1つではないかとお話しました。

 コロナも地球環境問題も、何が原因かと言えば、これまでの私たちの自然との向き合い方が「支配」になっていたからです。ようやく、これをなんとかしなければならないと多くの人が思い始めました。戦争が起き、核兵器が使われたら、人間はもちろん、他の生きものたちも消えるでしょう。一人一人が人間らしく、生きものらしく生きることに、お金と時間を使う社会に変わるときです戦争などしている暇はありません

 コロナをきっかけに、東京や大阪などの大都市に暮らさなくても、リモートで仕事ができることがわかりました。東京では初めて人口が減ったというニュースもありましたし、人の活動が減ったことで、空気や水がきれいになって花が美しく咲いたということも前回お話しました。

 経済優先による一極集中はやめて、北海道から沖縄まで、一人一人が本当に暮らしたいと思う場所に分散して暮らせば、人間と自然との向き合い方はうまくいきます。地球のどこで暮らしてもよいでしょう。

  今の日本では、大都市にエネルギーを供給するために、地方に大規模な施設を建設していますが、分散して暮らせば、小さなソーラーパネルでもそれぞれの地域のエネは充分まかなえます。地域で気候の違いはあっても、太陽、風、水などそこに合った自然の力を上手に生かすことです。

 若い人たちは、すでに少しずつ分散して暮らし始めました。家賃も安いし、仕事はリモートでできます。これまで、地方には職が少ないことが課題でしたが、それも解決の努力が始まりました。通勤にかけていた時間が亡くなった分、増えた時間を、今までできなかった本当に自分がやりたいことにも充てられます。家庭菜園をする人もふえましたし、地元で作った美味しいものを食べて、太陽エネルギーも地産地消なんて素敵でしょう。

 2020年に、私たちはコロナで貴重な経験をしました。厳しい状況はつづいていますが、新しい動きも出てきています。一人一人が好きな場所で、大切だと思うことを一生懸命にやれば、人間と地球にとってよい方向に向かっていきます。そのスタートの年に2021年がなればと強く願います。

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