反貧困の湯浅氏「橋下維新を考える」

讀賣新聞夕刊(2月25日)のシリーズ「橋下維新を考える」の(6)です。
なかなか面白いやり取りですので、全文引用してみます。

反貧困ネットワーク事務局長   湯浅 誠氏 42    無理に切れば無理が出る


ーー橋下徹大阪市長は、湯浅さんが批判してきた小泉元首相とよく比較される(が?)。
 小泉さんは社会全体のセーフティネット(安全網)を切ってきたが、橋下さんは、私立高校無償化や塾クーポンで貧困層も等しく教育を受けられるようにしてから自由競争だという主張で、従来の格差・貧困問題での批判は通用しない。まっとうな新自由主義者という点で、小泉さんより手ごわい印象だ。
 小泉さんが「自民党をぶっ壊す」と言って注目された時は、頂点を極める直前だったが、橋下さんは、たたく相手をまだ膨大に残している。


ーーその相手は、橋下さん自らが次々と作り出している。
 そうしないと彼の運動は止まってしまうからだ。漫画の「ワンピース」や「ドラゴンボール」の世界ですよ。敵の出てこない「ワンピース」なんて考えられない。より強い敵と戦って、その姿を世間が持ち上げる雰囲気が怖い。 橋下さんの主張は、首相公選制など議会制民主主義そのものへの不信にグレードアップしているが政党政治が壊れていく感じをうける



ーー大阪市西成区の特区構想をどう評価しているか(?)。
 これまで避けられてきた地区の底上げに取り組むことは悪くないが、ホームレス対策が何もなければ、彼らは単に排除され、西成以外に散るだけだ
現状の最大の問題は、ホームレスに社会参加の方法や場がないことで、そこを有効にすれば、街は活性化する。
 ただ、橋下さんがそんなに貧困対策に関心があると思えない。本気なら市長2期8年で取り組むでしょうが、そうはならないでしょうし。


ーー橋下さんが日本の政治指導者になれば、どうなると(?)。
 アメリカ的な二極化の社会じゃないですか。複雑な利害関係をばっさり切るのが橋下さんの支持の根幹で、それで私たちはすっきりするかもしれないが、切られるのは私たち世の中は複雑。無理に切れば、無理が出る。必要なのは、複雑さに耐える力だと思う。(聞き手・山村英隆)

ひょっとすると、橋下氏と湯浅氏は同い年? 同年代ですが、持ち味というか、違いますね。
2月28(?)日の夕刊は、シリーズ(9)で、70歳の教育のベテラン、「箕面市教育委員会教育長も務めた」とありますがいつの頃でしょう? 年長者らしく、良い点と直すべき点を挙げてやんわり批判されています。

中央教育審議会副会長 梶田 叡一氏 70    首長 教委のサポート役に


ーー橋下徹大阪市長は教育行政への政治関与を強めようとしている。(が?)

<略>
 教育は一色に染まることが最もよくない
小中高で12年間かかる教育が、首長が代わる4年ごとに変わってしまっては、教育の基本である学力の積み重ねなんてとてもできない。面倒でも、いろんな考えをすりあわせていく作業が大切だ。
ーー橋下市長は、保護者が教員を評価できる仕組みにこだわっている。(が?)
 アイデアはいい。特に大阪では、公立の先生に「自分の身分は守られている」との意識が強すぎる。教え方がまずい先生は、他の職業に転身してもらわないと困る。
橋下さんは「(経済的な)格差を世代間で固定させない」という考えを打ち出している。大いに賛成だ。貧困の連鎖を教育の面からどう打ち破るかは大事だ。予算を握る首長の権限で、やる気のある子をどんどん支援してほしい。


ーー橋下市長の教育改革に期待できる面もあると。(?)
 やり方は乱暴だが、思慮深いところもある。知事時代、橋下さんをあれだけ批判した教育長をクビにしなかった。現行制度でも、首長のリーダシップと見識があれば、いい教育は十分にできる。学力の高い自治体では、首長が教育委員会をいい形でサポートし、教育委員会が学校現場を支えている。首長が定めた教育目標を果たさないからと、教育委員会を罷免するのはナンセンスだ。
 仕組みを変えればなんとかなるという素人くさい考えはやめるべきだ。今いる教師たちが「よし、やるぞ」と目が覚めるような施策をやってほしい。(聞き手・冬木晶)

さすが、元教育委員会の委員長さんだけに、首長と教育委員会と学校現場の教師との関係については納得のいくお話です。
「面倒でも」とか「やり方は乱暴だが」とか、湯浅さんは「必要なのは複雑さに耐える力だ」と、お二人とも、橋下氏の性急さやこらえ性のなさに触れておられます。橋下さんには、ぜひ、苦言にも耳を傾けて、時間のかかるものには時間をかける必要があるということに気付いていただきたいものです。
シリーズ最後は3月1日、橋下大阪府知事時代の府特別顧問も務めた元三重県知事の北川正恭氏です。

 早稲田大教授  北川 正恭  67    船中八策 政界再編促して


ーー橋下徹大阪市長が出てきた背景をどうみるか。(?)
 <略>
役所と税を山分けする業界団体のようなタックスイーターの論理があまりにひどい中で、橋下さんという「モンスター」が生まれた。説明責任を果たす相手は市民、タックスペイヤー(納税者)だと。<略>

ーー時代の必然であると。(?)
 地方分権一括法(2000年施行)で分権が進み、地方がある程度、自由に羽ばたけるようになったタイミングと、橋下さんの才能が合致した歴史の必然の一コマだ。20年前なら彼は3日で体制権力につぶされていますよ。


ーー首長経験者として橋下市政の現状をどう思うか。(?)
 現実路線を歩んでいる。彼は変節の名人、リアリストだから。政策が適当かどうかは議会でチェックすればいいし、まずければ市民が選挙で審判を下せばいい。議会のチェックが追いついていないなら、もっと長く開会すればいい。三重県議会はお盆を除き、年200日以上開いている。
ーー国政も知る政治家としてアドバイスすることは(?)
 <略> 維新版・船中八策をよく練って理念・政策本位でいくべきだ。次期衆院選に向け、政界再編のトリガー(引き金)となって、民主主義をレベルアップしてほしい。     (聞き手・坊美生子)     おわり