米倉涼子さんと『新聞記者』と小泉今日子さん、そして「報道の自由に反する日本の『記者クラブ』」

🔲山崎雅弘さんがツィッターで紹介されていた2つの記事から。一つは最近所属していた芸能事務所を退所した米倉涼子さんの次回作があの「新聞記者」だというニュースです。3月の日本アカデミー賞で作品賞を受賞した藤井道人監督の映画「新聞記者」では主演の二人も主演男優賞、女優賞を受賞しました。原作は東京新聞の望月衣塑子記者の同名著作。それを米倉京子さんと仲の良い小泉今日子さんも加わってNetflixでの映像化だそうです。

小泉今日子さんは、最近では俳優業より裏方のプロデュース業に回っていますし、ツィッターでは安倍批判とも取れる意見も発表。「キネマ旬報NEXT(Vol.33)」では「小泉今日子が求めつづけるもの」が写真とともに14頁にわたって掲載されています。最後の頁の今年5月22日に配信された#We NeedCulture at DOMMUNE」~文化芸術復興の基金をつくろうのトークイベントの最後に小泉今日子さんが発言した「まとめの言葉」が今の小泉さんの考えをよく表していると思いますので書き移します:

今日、これ、参加させていただいて、たとえばドイツでご活躍なさっている音楽の浅沼(優子)さんだとか、あと韓国の映画、演劇の方々、それとインドネシアの方々のメッセージなんかも聞かせていただきましたけど、

やっぱり今、私たちに必要なのは

個々、それぞれがどう社会とつながるかっていうことを

もう一度考え直して

そして成熟した社会、成熟した国

そこにはきちんと文化っていうのが根付くんじゃないかというのが

今日、自分が感じた最大の、というか最後の結論であります。

ほんとにそれを人任せにしてはいけないし

それを得る権利っていうのも自分たちでしっかり持って

そしてそのなかで責任を持った作品作りをしていくっていうことと

あと、最後のツィッターのメッセージ(にあった)

文化は全てが人の心を温かくするものではなくて

そうじゃないものも認める、それが文化なんだ」っていうことも

みんな、忘れちゃいけなくて

ひとつの方向に、みんなわーっていっちゃわないで

ただ一人の人のために存在するものもある

少ない人のために。それも、みんな

忘れないでおきましょう、って気がしました。 

🔲もう一つの記事は、7月にニューヨーク・タイムズがアジアの拠点を香港から東京ではなくて韓国のソウルへ移転その理由が東京には「報道の自由がない」というもの。ところが日本でこの理由について報道したメディアがほどんどないという。報道の自由がないと判断されるのは、1941年、戦時体制突入と同時に生まれた『記者クラブの存在。EU記者クラブ制度を全廃するよう日本政府に要求していることを知る人も少ない。長い記事ですので見出しと内容の一部を張り付けてみます:

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 東京には「報道の自由」がない

 ・ 国際メディアが東京に見切りをつけた理由は、日本の国力の低下、政変がないため国際ニュースが少なくなったという事情もあったが、最も大きな理由は、日本にしかない「記者クラブ制度」の存在で、外国人記者の取材が困難だという理由が最も大きいと思われる。

・米紙『ニューヨーク・タイムズ』(以下、NYT)は7月14日、来年までに、デジタル・ニュース部門のアジアでグローバル拠点を香港から大韓民国の首都ソウルに移転を進めると発表した。東京も移転先候補になったが、報道の自由」がないという理由でソウルになった。NYTがそう判断した理由は、記者クラブのある日本を避けたのだと筆者は見ている。

 

香港のメディア状況が「中国本土並み」になることを危惧

・NYTはニューヨーク、ロンドン、香港の3都市にあるグローバル拠点で、24時間体制でオンライン・ニュース(電子版)を発行している。香港のスタッフが24時間のうち7時間の編集を担っているが、7月14日、香港にあるデジタル部門をソウルにシフトすると発表し、報じた。香港で勤務するスタッフの3分の1が、来年までにソウルへ移るという。

・NYTはアジア太平洋地域の都市の中から香港以外の適切な場所を探す中で、バンコク、ソウル、シンガポール、東京、シンガポールなどを検討した。その結果、さまざまな理由の中でとりわけ、①外国企業に対して友好的である② 独立した報道(independent press)が存在する③主要なアジアのニュース分野で中心的な役割を担っている――の3点で魅力があるとして、ソウルを選んだ。

「 みんなで書かない」という、記者クラブメディアの悪弊

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・“世界で最も信頼される新聞”とも言われるNYTが、「韓国には権力から独立した報道機関があるが、日本にはない」と判断したことは、日本の政府とメディア界にとって衝撃的なできごとだったはずだ。しかし、日本メディアはソウルが選ばれた理由を報道しなかったため、多くの日本の人々はこのことを知らない。

それでは、NYTが東京でなくソウルを選んだことを日本メディアがどう報じたかを見てみよう。

 ほとんどの日本の新聞・テレビは、「報道の独立性」について触れず

海外メディアはソウルの「報道の独立性」について報道

日本には高水準の『報道の自由がある』という錯覚

 NYTのノリミツ・オオニシ東京支局長(日系カナダ人)は2005年9月7日、「なぜ日本は一党に統治されることに満足なのか」と題する記事でこう書いたことがある。 「日本の民主主義体制は東アジアにおいて最古だが、政権党は中国、北朝鮮共産党とほとんど同じくらい長期間権力を掌握している。南朝鮮や台湾の民主主義体制の歴史は日本より短いが、すでに政権政党の交代を何度か経験しており、生気にあふれる市民社会から強固で独立した報道機関まで民主主義を支持している点で、日本よりも輝いているように見える」  オオニシ記者の認識は、今でも東京にいる外国人記者に共通しているのではないか。しかし不幸なことに、日本の政財界のエリート、記者クラブメディアの幹部と記者は、「日本は民主主義国で、高水準の『報道の自由』がある」と錯覚している。国境なき記者団」が「報道の自由度」ランキングで日本を66位にしていることも、あれこれ理由をつけて素直には認めようとしない。

 

記者クラブという「既得権益

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筆者は2012年9月13日、当時、NYT支局長だったマーティン・ファクラー氏に記者クラブについて聞いた。『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』(双葉新書)の著者だ。ファクラー氏は、2011年3月の東電福島第一原発事故の翌日に南相馬市へ入ったが、市役所記者クラブにいるはずの記者たちは全員逃げてしまっていたという。  ファクラー氏はこう語った。

「NYTの記者になる前はウオールストリートジャーナル(WSJ)にいて、日銀担当だった。日銀総裁の記者会見に参加するには記者クラブの幹事の許可が必要だった。質問をしてはだめだった。WSJという世界的な新聞が日本の中央銀行の総裁の記者会見に行っても、質問をしてはだめという。中国にもない状態だ。  

記者クラブ制度でいちばん損をするのは日本の雑誌、フリー、ニューメディアなどの記者と日本の読者だ。当局の発表をそのまま紙面に載せる記者クラブメディアにジャーナリズムはない。記者クラブは情報の寡占というビジネスモデルを既得権益として守ろうとしている」

 国連人権委員会の「報道の自由」特別報告者のデービッド・ケイ教授が2016年4月に東京で「記者クラブの廃止」を提案した時も、記者クラブまったく報道しなかった。

 日本の大手メディアは、NYTが「日本に報道の独立性がない」と認定し、「韓国には独立した報道がある」と見なしたことを日本人に知られたくないのだ。まさに島国根性だ。

 

EUが日本の記者クラブ全廃を日本政府に要求

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2003年3月、イラク戦争に反対する市民が『ワシントン・ポスト』本社に「真実を報道せよ」と要請。米国市民は報道のあり方を常に考えている

 記者クラブ制度は1941年、日本がアジア太平洋戦争(「大東亜戦争」)突入と同時に生まれた。戦時体制下で今の形になった記者クラブが、戦後も存続して今日に至っている。 「記者クラブ」のことを、海外メディアは「press club」とは訳さずに「kisha kurabu」とか「kisha club」と表現している。海外のどこにでもある「プレスクラブ」との混同をさけるためだ。 「キシャクラブに私は入らない。キシャクラブは政府がつくっている。政府は私たちの敵。敵の政府に取り込まれ、愛玩犬にされているのがキシャクラブの記者たちだ」と『ワシントン・ポスト』のトーマス・リード支局長は語っていた。  こうした日本の記者クラブ制度を全廃するよう、欧州連合EU)が日本政府に要求しているということも多くの人が知るべきだ。

 

記者クラブ問題の存在を”なかったこと”にする記者たち 

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記者クラブ存置派の記者や学者は記者クラブがなくなると、官庁の中にある取材報道の拠点がなくなる」という詭弁を弄している。しかしこれは、日本の植民地統治時代の遺制として残っていた「記者団」制度を2004年に全廃した、韓国の歴史に学べばいい。

・韓国だけでなく、日本にも記者クラブを廃止したケースがある。

安倍晋三首相は4月17日の会見で、記者クラブのあり方については、皆様方に議論をしていただきたい」と答えている。このことは筆者記事「『記者クラブ問題の議論を』フリー記者の問いかけに応えた安倍総理発言を内閣記者会が“黙殺”」ですでに報じた。 『東京新聞』の望月衣塑子記者はネットの討論会(5月3日)で南彰・新聞労連委員長に対し、浅野健一さんがこの(首相の)言葉について、官邸側と内閣記者会に質問したいというお話を耳にしたこので、改めてそうだなと思った」と前置きしてこう語った。

 

内閣記者会は官邸報道室と“共犯関係”にある

 首相が身内ばかりの御用記者を前にして、隠しもせずに一問一答メモを見せたことで、権力とメディアの癒着の実態がまた明らかになった。安倍会見のほとんどは「事前に質問が各社から文書で出され、首相秘書官が回答を用意し、首相はそれを読んでいるだけ」だということが知られてしまったのだ。

 南委員長は7月10日、元メディア記者のメディア学者らと「ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言」を新聞協会加盟129社の報道責任者へ送った。しかしこの送り先は、内閣記者会にすべきだったのではないだろうか。

 内閣記者会は官邸報道室とともに、日本の報道の自由を阻害する“共犯関係”にある。内閣記者会のメンバーの多くが新聞労連民放労連傘下の労組の組合員だろうから、南委員長は組合員に、記者クラブ問題に関して議論するよう指令を出してほしいと思う。 <文・写真/浅野健一

あさのけんいち●ジャーナリスト、元同志社大学大学院教授