英語の4技能の「話す」だけを測るのは?(鳥飼玖美子)と「昨年、下村氏東大介入」NHKニュース

今日取り上げたいのは英語の民間試験について。一昨日の夜のNHKニュース番組だったか、東大が英語民間試験の導入に前向きに方針転換というニュースを(去年のこと)。女性キャスターが、”「国策大学」という言葉に驚く、国立大学は「国策大学」ではなく「国民の大学」”とかコメントなさっていたようでしたが。(詳しくは最後に)

◎さて本題です。11月18日(月)の朝日新聞朝刊の教育面に「英語民間試験見送り 今後の課題は」に鳥飼玖美子さんが取り上げられていました。同時通訳で活躍されていた頃、テレビでよくお見掛けしました。ところで、私が、英語教育について大変印象に残っていて影響もうけたのは中津燎子さんの「なんで英語やるの?」(大矢壮一ノンフィクション賞)です。この本を読んだのは、忘れもしない私が胃がんの手術で病院で越年した1983年のお正月、出版されたのが1974年ですから9年後ですね。退院してから、中高校時代に英語を個人的に習っていた先生をお訪ねして相談したら「やりなさい」と言って今は使っていないという教材をいただきました。それから23年ほど中津さんの本と私の経験から得た教え方でやってみました。今から36年ほど前のことです。

小学生のときに英語を習ったことがなくて中学から初めて英語を学ぶ子供たちに教えたいという条件付きで始めました。小学4年生で、おばちゃん英語教えてと毎年言ってくれた女の子には、学校で国語をしっかり勉強してからねと3年間待ってもらったこともありました。

私の最初の授業はアルファベットの発音から。口の断面イラストを使って舌や唇の動かし方、力を入れる舌の位置を目で見て、意識して、実際自分でやってみて音を出す練習。姿勢をよくして日本語を話す時より大きな声で息の量を倍にしてとお願いします。

次は、ノートに日本語の50音をアルファベットを使って表に書いていきます。あ行を横書き、縦に「あかさたなはまやらわ」。そうすると、横に「ka,ki,ku,ke,ko」と並び、日本語の音は、子音と母音の2種類の組み合わせで出来ていることが目で分かる。「か」を発音して「かー」と息が続く限り伸ばすと、最後に聞こえるのは「あー」だけ。「『あ』しか聞こえないでしょ。『か』はどこへ行った?」。「いつまでも伸ばせるのが母音。単独でも使われる英語の子音は日本語と違って息の量を倍以上にしないと聞こえないよ。」

次に、辞書。辞書の引き方と発音記号を教える。柔らか頭の中1は教えればすぐ覚えてくれる。分からない単語の意味と発音は自分で調べる習慣をつける。お遊びで、敢えて1年生では使わない長い単語を辞書でひいてみる。発音記号とアクセントが解れば、知らなくても読めることがわかる。ネイティブスピーカーに習わなくても英語の発音は身につくことを徹底しました。次に、IとYouを教えること。これは中津さんの持論。ほかでもない私(I)が、あなた(you)に話すんだということをどんな時にも意識すること。あいまいな主語ナシ発信は英語には無いことを徹底する。あとは、5文型。どんな短い文章も学術論文も英語の文章はこの5文型以外にないこと。文型がわかれば後は長文でも、単語を調べて分析力と推理力で英語は読める。

考えてみると、ローマ字、発音記号、辞書引き、文法など、あのころ教える必要がないといわれていたことばかり教えていましたね。でも、この年齢の子どもたちはすぐ覚えて難なく使いこなせます。教えるべきことは教える。その後この子たちの英語がどうなったかわかりませんが、英語が嫌いという子ども達にはならなかったのではないかと思っているのですが・・・

今回、本の内容を確認するために「中津燎子の未来塾」というサイトを訪ねてみたら、こんなことが書いてありました。こういう考え方の先生です:

 ・・・21世紀は明らかに違って、仲良くやっていかなければならない。それには文化を200%やらなければすぐ戦争になっちゃう文化の中に宗教が入りますからね。イスラム教にしてもキリスト教にしても、宗教の凄みというのはすごいですよね。

 要するに、到達点としては文法50%、発音50%の仕上がりでいいんじゃないでしょうか。文法の中で基盤の構造だけ覚えればよろしい発音は母音と子音、例えば日本語だったら、日本語に無い音を重点的にこうだと耳で聞かせ、自分でやってみるということをすればそれでよろしい。100%できなくてもよろしい。ただし、文化だけは絶対に誤魔化さないでキッチリやらないと必ず戦争が起きるだろう、というふうに私は思っております。

 ★さて中津燎子さんには鳥飼玖美子さんとの共著の本があります。『子どもに外国語はいらない 地球時代の井戸端会議』(文藝春秋、1981年5月)

◎前置きが長くなりすぎました。鳥飼さんの記事です: 

 「話す』技能  公正公平には測れない

 「見送り」は当然です。以前から英語民間試験導入の制度には深刻な問題があると指摘してきました。仕組みそのものが、構造的欠陥を多く抱えており、英語力がつく制度だとも思わなかったからです。遅きに失しましたが、受験生に甚大な被害を与えるのは避けられました。

 「読む、聞く、書く、話すの4技能を測ることはいいが、制度がまずかった」という意見を見聞きします。それには異論があります。

 4技能の土台は読解力、つまり「読む」ことです。読むことによって、単語の使い方や文章の組み立てを学び、それをもとに書くことを学ぶと、聞いて分かるようになる。そして話せるようになるのです。

 日本では多くの人が自己紹介や道案内などが「話す」ことだと勘違いしているようです。日常会話は決まり文句を覚えてしまえばいい。残念ながら、英語民間試験の一部はこの部分しか測れていません。

 でも「話す」ことは、自分の考えや主張を英語で発信できるか、英語の論理で伝え理解しあえるかなのです。そのためには、英語という言語のルールを知らなければなりません。それが文法です不要論を言う人もいますが、赤ちゃんが自然に言葉を獲得する母語と、意識して学ぶ必要のある外国語は違うのです。

 高校までは英語の基礎を作り、その上で高校卒業後に、大学や社会で話す力を磨けばいいと考えます。中学校の英語教育に資源を投入すべきです。中学生は記憶力や吸収力が抜群で、母語を土台に分析的に学ぶこともできます。少人数クラスにして、教員の質と数を確保すれば、成果は出るはずです。

 「話す」教育が必要ないと言っているわけではありません。高校まででも、読んだことについて検討したり、発表したりして4技能を総合的に学習すればいい。ただ、「話す」というのは、相手や状況、文化などの影響を大きく受けるので、50万人が受ける共通テストで公正公平には測れるものではないと思います。

 検討会議で1年かけて議論するとのこと。なぜ「4技能」をバラバラにして「話す」力を測定する必要があるのか。課題山積なのに英語民間試験を共通テストに入れる必要があるのか。1年と区切らず、話す力」とは何か、教育と入試のありかたを含め、根本部分から再検討してほしいと思います。(聞き手・山下知子)

トップで触れたNHKニュースの件。内容が詳しく書かれた記事を張り付けておきます。書き出しの部分、コピーです:

2019年11月19日 18時42分
今月導入が延期された英語の民間試験について、東京大学は去年4月、それまでの慎重な姿勢を転換し、活用へとかじを切りました。

今回、NHKは、その直前に開かれた自民党の会議の音声データを入手しました。そこでは大臣経験者が、東京大学に民間試験を活用するよう、文部科学省に指導を求める発言などをしていたことが分かりました。専門家は「大学が萎縮する発言だ」と指摘しています。これについて、東京大学は外部からの影響はなかったとしているほか、大臣経験者は「発言は当たり前で議院内閣制の意味も無くなる」と話しています