「村木厚子さんと考える(2)『つながりあう力 豊かな社会』」

(本日2つ目です)

🔲村木厚子さんの記念講演で渡されたレジュメは33ページもあり、お話の筋と、それぞれの資料となる数字やグラフが添えられています。これに従って、1時間半にわたる講演の濃い内容を少し辿ってみます。

🔲村木厚子さんと言えばあの事件です。郵便不正事件と言われていますが、大阪の検察庁が起こした事件でしたので、よく覚えています:

郵便不正・厚生労働省元局長事件(村木事件)

2010年9月10日に大阪地方裁判所が無罪判決を言い渡したえん罪事件。無罪判決の後、担当検察官が証拠を改ざんしていた事実が明らかになり、主任検察官であった大阪地方検察庁特別捜査部検事が証拠隠滅罪で、その上司である特別捜査部部長および副部長が犯人隠避罪で有罪判決を受け、処罰された。

日本弁護士連合会:郵便不正・厚生労働省元局長事件(村木事件) (nichibenren.or.jp)

◇村木さんは今67歳。講演は、14年前のこの事件からスタート。「人は誰でも一夜にして『支えられる存在』になる」。それまで無意識に自分は助ける側の人間、支える側だと思っていたが、2種類の人間がいるわけではなく、一人の人間が一瞬にして立場が変わるという良い経験をした。「どこから探してきたか分からないような人相の悪い写真が使われる」には会場からも笑いが。

◇2009年6月14日、出頭、夕方逮捕。無罪証明に1年3ヵ月かかり、拘留生活164日、宇宙飛行士の宇宙滞在163日に「1日勝った!」とジョーク。無罪を勝ち取るまで『必要だったのは』弁護士という「プロの支援」と「インフォーマルな支援(家族とか友人、同僚など)」と「世間の支援」。

・裁判の為、埼玉から高校生の娘と新幹線で大阪へ、降りるとき乗客の人たちから「頑張って」と声を掛けられた・大阪で二人で食事をした後、帰ろうとしたら、お客さん達から「がんばって」と声を掛けられ、「分かっていたんだ」「気づかないふりをしてくれてたんだね」と嬉しかった・職場復帰した6か月後、東日本大震災で福島の郡山へ行った時、被災した人たちから「頑張って」と声を掛けられ、なんて強くて優しいんだと思った。堀田力さんにこの話をすると、人間は励まされることだけでは元気になれない、自分も何かできるという自尊心が大事だと言われた。頑張れない、心が折れるのは「誰も信じてくれない」時と「食べられない、寝られない」時。

拘留時に心に残った風景と検事の言葉

三食(時間指定の)昼寝付きの拘置所で部屋の窓に食事を運んでくれるのは若い受刑者。どうしてここに入ったのか?と検事に聞くと《薬物と売春》で「大変厳しい環境の子たち」という。それに「僕たちは正月前は忙しい」とも。理由は正月をここで過ごしたい人がいて、逆算して無銭飲食をするという。私は11月に出たが『ここで冬を越したくない』と思った。正月にここに居たい人とは?(簡単なおせちが出るという)

犯罪者の中で一番多いのは中卒以下。入って外に出ても福祉や教育に繋がらない人が多い。女の子が刑務所に行く前に支援しようと思うようになる。

寂聴さんが90歳になり、何か・・・という時、弁護士の大谷恭子さんと3人で「若草プロジェクト」を立ち上げる。( ↓ レジュメから)

若草プロジェクトとは | 若草プロジェクト (wakakusa.jp.net)

🔲村木さんのお話の中でとても印象に残った言葉。困りごとを他人に相談するのは難しい。相談するには勇気がいる。今の状況に不安や不満を持つことが出来て、それを言葉に出来て、協力を求めて相談する勇気がなければ、出来ないことです』

ここまでで、レジュメの9頁まで。村木さんご自身も最初に時間をたっぷりかけられたので最後はすっ飛ばしておられました。

◇33頁、最後の一つ手前の頁の「風土は『風の人』と『土の人』が創る」という表題について説明が。「土の人」というのはその分野で長年頑張っている人。「風の人」というのは、ニューカマー。今までの人と新しい人が一緒にやる、これが大事。

◇最後に、子どもの頃が大事、困ったことを聞いてあげる。学校は本来、教育。それ(教育)をやるためにも、困ったことを聞くことが大事になる。

◇一番の後悔は、公務、役所として何が出来るかを考えていたが、皆で何が出来るかを考えればよかったと思う。地域で皆が知恵を出し合っていく、これが大事だと思う。

🔲3時15分から若いお二人(福祉関係のお仕事をされている)とのトークに入りました。実践的なお話が大部分でした。メモから:

・「生活困窮者自立支援法」は『縦割り』の生活保護より、『横割り』で考え方が良いと思ったが、制度は作ったその時から硬直化・劣化が始まるので、改善していかなければ。

 1~10にするのは学者の力。

10~50にするのは、企業の力

50~100にするのは、公的力

0~1にするのは、現場の力

常に見直して育てる。行政の人が動いて、制度が出来る。制度化すると格差を埋めていけるメリットもある。

「経済的困窮」は目に見えるが、「孤立」は目に見えないこの2つが隣り合わせだとは、法律を作った時、だれも考えてくれなかった。

◇福祉関係の相談業務について、税金を使うからには数値化が求められるが、質的変化の発信が必要との意見に、村木さんから「もう一つは、ストーリー。物語が生まれたという、説得的なストーリーを言語化してくれるとありがたい」。

◇医学部の学生が福祉の分野に行く、など、異なる分野の人に説明するとよい。

たとえば、「せいほ」と聞けば? 「生活保護」とお一人が。

                「生命保険」と村木さん。

分野によって「共通言語」が異なるという体験もよい。

主婦と女子高生の自殺率が高いのは同居家族がいて、経済力がなく、家族から逃げられないから。女性も経済力を持たないとダメ

日本には無意識の女性差別がまだある。世界の男女平等のランキングが日本は低い

下から5分の1,6分の1ぐらいを守り続けている。よくなってはいるが、他の国のスピードが速い。「男性の働き方」が日本と韓国では改善されていない。働く女性の割合は増えたが、結婚・家庭が理由で仕事を辞める割合が高い。仕事と両立させたいが、出来ない。

解決の1つには、女性が両立にチャレンジすることが必要。仕事と家庭の両立が可能な職場を実現すること。男性の育休を可能に。以前は、「男女どちらが育休をとるかについて行政は関わってはいけない」となっていたが、今は政府も「男性も育休を取ろう」と言っている。

「再犯防止」。再犯の2割以上が知的障害。福祉に繋がっていない。男はヤクザの使い走り、女は身体を売る。

「相談窓口」は大事。多様性、柔軟性のある窓口。専門性も大事だが、相談する人との相性(多様性)も大事。自殺率の低い街では、悩みごとがオープンに相談できる。窓口では怒らないことが大事。(以上、タップリでした。書き洩らしご容赦)